大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4961号 判決

原告 菊池五郎 外四名

被告 東京信用金庫

主文

一  原告らが、それぞれ被告金庫に対し、雇傭契約上の権利を有することを確認する。

二  被告金庫は、原告菊池に対し別紙債権目録第一の一、二の、原告大神田に対し、同第二の一、二の、原告鈴木に対し同第三の一、二の、原告斉藤に対し同第四の一、二の、原告広田に対し同第五の一、二の各認容金額欄記載の各金員と、これに対する各支払期日欄記載の日の翌日以降、それぞれ支払済みに至るまで、年六分の割合による金員を支払え。

三  被告金庫は、昭和四三年一月以降、原告らをそれぞれ復職させるまで、毎月二五日限り、原告菊池に対し金五万四、七〇〇円、原告大神田に対し金四万三、三〇〇円、原告鈴木に対し金八万四、六〇〇円、原告斉藤に対し金六万九、六五〇円、原告広田に対し金六万一、四〇〇円をそれぞれ支払え。

四  原告らそれぞれのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は全部被告の負担とする。

六  この判決のうち前記第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、原告らが被告金庫に対し、雇傭契約上の権利を有することを確認する。

二、被告金庫は、

原告菊池に対し別紙債権目録第一の一、二の、原告大神田に対し同第二の一、二の、原告鈴木に対し同第三の一、二の、原告斉藤に対し同第四の一、二の、原告広田に対し同第五の一、二の、各請求金額欄記載の各金員と、これに対する各支払日欄記載の日以降、それぞれ支払済みにいたるまで、年六分の割合による金員を支払え。

三、被告金庫は、原告菊池に対し、金五万四、七〇〇円、原告大神田に対し金四万三、三〇〇円、原告鈴木に対し金八万四、六〇〇円、原告斉藤に対し金六万九、六五〇円、原告広田に対し金六万一、四〇〇円をそれぞれ昭和四三年一月以降毎月二五日限り支払え。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに右二、三項について仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

第三、請求原因

一、被告金庫(以下単に金庫というときもある)は肩書地に本店を置き、東京都内新宿区など六区に合計一六支店を有し、従業員五〇〇名余を擁し(三五年当時)信用金庫法に基き預金、定期積金の受入、資金の貸付、内国為替取引等金融業務を営んでいる信用金庫である。なお金庫は、昭和三一年一月四日、従前の東京山手信用金庫、京北信用金庫、板橋信用金庫の三金庫が合併して設立され今日に至つている。

二、原告らは左のとおり直接被告金庫に又は合併以前の旧金庫に雇傭され被告金庫の従業員となつた者であるが、入社年月、及び、被告金庫から解雇の意思表示を受けた当時の勤務場所及び役職は左のとおりである。

原告    入社年月  入社金庫  勤務場所    役職

(1)  菊池五郎  昭29・4 山手   新宿区落合支店 なし

(2)  大神田武行 昭32・2 被告金庫 新宿区新宿支店 なし

(3)  鈴木豊治  昭26・4 山手   板橋区大山支店 支店長代理

(4)  斉藤幸蔵  昭27・7 山手   新宿区淀橋支店 貸付係長

(5)  広田錦作  昭28・6 板橋   板橋区成増支店 なし

三、被告金庫は昭和三五年一一月三〇日、原告広田を除くその余の原告らを、又同年一二月一二日には原告広田を、それぞれ懲戒解雇したとして、原告らの従業員としての地位を争い、就労を妨み、賃金、賞与等の支払をしない。

四、(一) 被告金庫における毎月の賃金支払は二五日支払の約束であり、原告らの昭和三五年度の賃金月額はそれぞれ左のとおりである。

(1)  菊池 二万三六五〇円 (2) 大神田 一万九〇〇〇円

(3)  鈴木 四万三二〇〇円 (4) 斉藤  三万四六五〇円

(5)  広田 三万四〇〇〇円

(二) そして被告金庫は従業員に対し、就業規則第三章により定期昇給を毎年実施してきたから原告らが雇傭契約上の権利を有する以上定期昇給を受ける権利を有し、仮にしからずとするも原告らの所属する東京信用金庫従業員組合(以下単に組合という)と被告金庫との間では毎年度ごと定期昇給協定を締結してきたもので、原告らは右組合の組合員であり、かつ被告金庫の従業員としての地位を有する以上、右協定にもとづき(基準は別表一のとおり)この定期昇給を受ける権利を有するものである。

(三) また各年度ごとの期末、夏期、年末の各賞与についても就業規則、しからずとするも組合と被告金庫間の協定により、各賞与ごとの支払基準(原告らいずれも別表二のとおり)により支払を受ける権利を有する。なお考課配分については、原告らが雇傭契約上の地位を有するにもかかわらず、被告金庫が、その責に帰すべき事由により支払を拒否してきたものである以上、少くとも従業員の平均考課相当の考課配分を受ける権利を有する。

(四) このような基準により、組合と被告金庫間における争議が解決して業務が正常に復した日である昭和三六年五月七日以降原告らが受けるはずである賃金月額およびその支払日は別紙債権目録第一ないし第五の各一のとおりである。

また原告らが受けるはずであつた昭和三五年度年末賞与以降の各賞与額、うち考課配分の額、および支払日は、別紙債権目録第一ないし第五の各二のとおりである。

さらに昭和四三年一月以降(口頭弁論終結以後の)毎月二五日限り、原告らは別紙債権目録第一ないし第五の各一の請求金額欄末行の金額と同額の月額賃金を受け得るはずである。

五、よつて原告らは請求の趣旨記載のごとき請求におよぶ。なお二項の六分の割合による金員とは、商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金であり、三項は口頭弁論終結時(昭和四二年一二月二五日)以降の将来の給付を求める部分である。

第四、請求原因に対する認否及び反論

一、第三の一ないし三項の事実はいずれも認める。

二、第三の四項中(一)の事実は認める。(二)のうち被告金庫と組合間において毎年度ごと原告ら主張のごとき内容を有する昇給協定が締結されてきたこと、原告らがいずれも組合員であることを認めその余を争う。(三)のうち就業規則により各賞与を支給してきたこと、又被告金庫と組合間に各賞与ごと協定が存すること、その支払基準が正常に勤務した従業員の場合は原告ら主張の別表二のとおりであることを認め、その余を争う。(四)のうち賃金については、原告ら主張のように定期昇給を考慮すれば、賃金月額が別紙債権目録第一ないし第五の各一請求金額欄記載の金額となること、およびその支払日が各支払期日欄記載の日であること、賞与については定期昇給および平均考課配分を加えれば各賞与額が別紙債権目録第一ないし第五の各二請求金額欄記載の金額となること、そのうち考課配分および支給日がそれぞれの欄記載のとおりであることは認める。

三、仮に被告金庫において賃金及び各賞与の支払義務があるとしても、

(一)  賃金については定期昇給額を加算すべきではない。昇給は被告金庫の、各従業員に対する昇給をなす旨の個別的意思表示によつてその効果が生ずるものであつて、原告らに対し昇給の意思表示がない本件においては昇給の効果は生じていないものであり、従つて、昭和三五年度(解雇当時)の各賃金額を基準に支払えば足りる。

(二)  賞与についても、被告金庫においては、たとえ在籍していても実働しなかつた従業員には、その分を支給しないのが原則であつて、原告らのように実働日数なき者には、各賞与ごと最低保障額として一万〇、〇〇〇円を支給すれば足りる。又、仮りにこの主張が認められないとしても、原告の主張する平均考課配分は控除されるべきであるし、定期昇給はなかつたものとし、昭和三五年度の賃金額を基準として、各賞与支払基準にてらして算出すべきである。

(三)  仮に被告金庫において、原告らに対し賃金支払義務を負うとしても、原告らはいずれも解雇された後別表三のとおり、それぞれ他の職場に常時勤務して収入を得てきたものであるから民法五三六条二項但書に従い、その収入金額の全額を賃金から控除するべきである。

四、被告金庫は原告主張の場所に本店を置き東京都内、新宿区に落合支店、上落合支店、淀橋支店、新宿支店、高田馬場支店、豊島区に要町支店、椎名町支店、池袋支店、板橋区に板橋支店、大山支店、志村支店、志村坂下支店、成増支店、文京区に江戸川支店、台東区に浅草支店を有し、原告主張の金融業務を営む出資金(昭和三五年一〇月末現在)二億七、九六三万八〇〇〇円の信用金庫であり原告らはそれぞれ原告主張の日時に被告金庫又は合併前の金庫に雇われ被告金庫の従業員であるところ被告金庫は昭和三五年一一月三〇日原告菊池、同大神田、同鈴木、同斉藤に対し、同年一二月一二日原告広田に対し懲戒解雇の意思表示をなした。

五、原告菊池、同大神田、同鈴木、同斉藤に対する解雇理由は次((二)及び(三))のとおりである。

(一)  本件争議の経過

(1)、被告金庫は合併以来四年を経過し業績が順調に発展するに伴い経営施策の近代化、合理化は緊急事となりそのため有能な主脳部を他より求めて経営陣の刷新を図るべく三菱銀行より、重広、福田の推薦を受けて同人らを理事に選任しかねてからの懸案事項であつた業務の刷新と事務能率の向上を計るべく業務部を審査、経理、企画の三部に分化する機構改革案を作成し、これに伴い人事異動を計画し同年七月中旬より組合に対し、協議申入れを行なつた。

(2)、しかるに組合は約一ケ月半にわたり何らの回答もなさずこれを黙殺し、被告金庫の緊急業務に対し協力の姿勢を見せず、あまつさえ同年九月一〇日にいたるも目下検討中である旨の回答をしたのみで、事実上、この機構刷新計画を頓座せしめるに至つた。

(3)、次に被告金庫は事務能率の向上の一環として、従来貸付の審査承認を得るため毎日各店舗長が申請書を本店の代表理事のもとまで持参していたこれまでの、いわゆる貸付禀議制度を改善して、貸付禀議書の控えを二部作成することにより書面の送付で決裁を行うこととし、同年九月一二日これを志村、江戸川両支店において試験的に実施しようとした。ところが組合は、これを組合員の労働条件に多大の影響を及ぼすものであるから組合と事前協議すべき事項であり事前協議をしないのは、昭和三五年六月二日付協定に違反すると主張して同月一四日団体交渉の申入れをし、同月二二日団体交渉の直前には、「被告金庫の合理化推進計画にはいつさい従業員を参画させないことに決定したので申入れる」旨の文書をよこしたのみならず同日さらに被告金庫の合併五周年記念行事の実施すらも労組員の労働条件及び利害に関係あるから組合と事前協議決定なしに行なうことは許されぬとして、これが準備の中止を申入れてきた。

(4)、被告金庫と組合の間には、昭和三三年八月三日付覚書及び同三五年六月二日付協定書が存するとはいえ、いわゆる労働条件に関する事前協議制なるものは、本格的な協定や慣行とはなつておらず、ことに右協定は単に唯一団体交渉約款を定めたものにすぎなかつた。

(5)、九月二二日の団体交渉の席上において、被告金庫は、貸付禀議制度については単に禀議書の控えを二部作成するだけの事務改善であり謄写機の設備によつて労働過重の心配はまつたくないこと、そして単に二店において試験的に行うにすぎないからこれをもつて労働条件の変更として協議を要するものとは言えないし又右制度の改善及び現段階での記念行事の実施計画自体そもそも労働条件ではないから団体交渉事項にあらずと反論した。さらにその席上組合が事前協議の根拠としている前記協定書は唯一団体交渉約款を定めたものにすぎないと主張した。

(6)、組合は、この団体交渉に際しても、従来のように傍聴者と称して八〇余名にのぼる組合員を席上に入れ、終始威圧的発言を行ない団体交渉は喧噪を極め、正常な話合いは不可能な状態であつた。そこで被告金庫は団体交渉を打切ることとし、同月二九日書面を以つて組合側の良識による善処を要望した。

(7)、このような紛争が生じて以後、組合は事前協議制に関する一方的情報宣伝を行ない被告金庫に対する誹謗ビラを配布するに至つたので、被告金庫もその対抗上郵便葉書を組合員私宅に送付することによつて組合員が、組合の歪曲した宣伝に乗ぜられることをいましめるとともに、自己の欲する団交方式のみを求める組合との摩擦を避けるため一時一週間程度被告金庫理事者が出庫を見合わせ、福田専務理事が金庫にとどまつて、電話連絡により金庫業務を遂行するなど組合に対する防衛策を講じてきた。

(8)、そして九月二二日以降、組合役員及び一般組合員において就業時間中頻繁に職場離脱を行なうのみならず、とくに一〇月五日以降後記のとおり各種違法不当な争議行為をなすに至つた。たしかに、被告金庫は組合からの団交申入れを拒否してきたが、その理由の正当なることは右に主張してきたとおりであり、団交にかわり少人数による話合いをしばしば提唱し(一〇月六、八、一八日)、これによつて問題の実質的解決を計ろうとしたが組合はこれを肯き入れなかつたし一一月九日以降一八日まで六回にわたり誠意をもつて団交を再開しているにもかかわらず一一月一一日以降全店全日ストライキに入つたものであり、まさに争議権を濫用したものというべきである。

(9)、そのため、年末で多忙を極める被告金庫は最少限度の業務確保すら困難となり、労使双方のトツプ会談、あるいは都労委への斡旋申請等事態の解決に努力してきた被告金庫も、やむなく企業の防衛措置として一一月三〇日組合に対しロツクアウトを通告し、あわせて違法不当な争議の責任を追求したものである。

(10)、このように経営者の業務上の必要に基き申入れた人事異動の協議には辞を構えてこれに応じず、経営者の日常の業務処理事項については事前協議制に名を藉り、事前協議をしなければ「準備の中止」を申入れるは勿論、試験的実施すら行わしめないというのであれば企業の運営は組合の向背によることとなり経営権は全く有名無実となり、ことに合理化推進企画に従業員を参画させなければ、合理化そのものができなくなることは明らかとなり、合理化に反対するために経営者の企画のすべてに事前協議を求めるというに至つては現代の経営秩序を無視するものというべく、このような目的のもとに行われた本件争議は明らかにその目的において違法である。

(二)  組合は昭和三五年一〇月五日ストライキ宣言を発し、前後して、以来、次の如き違法な争議行為をなした。

(1) 被告金庫の店舗に対するビラの貼付、赤旗の掲揚、懸垂幕の懸垂

(イ)組合は、ビラについては「三菱系列化反対」「三菱に乗取られるな」「理事長専務は三菱に帰れ」「三菱独占資本のカイライ理事長遂に馬脚を現す」「三菱資本の犬共金庫を私有化す」「経営者の出たらめを監視しよう」「預金をしないで下さい」等の恰かも「三菱独占資本」なるものの存在を作り上げ、これによつて被告金庫が私有化される感を与えるとともに、金融機関の使命を無視するような不当な内容を記載し、(ロ)先ず昭和三五年九月二四日以降本店二階通路及び食堂の壁に多数貼付し、次いで同年一〇月五日夜以降は主として第三者に不信感を与える目的で、全店舗の内外、特に建物正面、側面客溜り、営業室等の顧客及び公衆の目につき易い箇所に夥しく貼付し、被告金庫が何回となく警告、制止、及び撤去してもこれを全く無視し、かえつて一層激しく貼付し、そのビラのために建物が埋れる程反覆実施した。(ハ)赤旗、懸垂幕については、同年一〇月五日以降本店他主要店舗に多数掲揚または懸垂し、被告金庫の撤去命令にも応ぜず、擅にこれを存置し、もつて被告金庫の建物管理権を侵害して、金融機関としての建物の効用、体裁を甚だしく毀損すると共に、その信用を甚だしく失墜せしめ、預金の予約申込を取消されるなど被告金庫に甚大な損害を与えた。

(2) 被告理事長その他の理事私宅に対するビラ貼付。

組合は、昭和三五年一〇月一八日深夜から翌一九日未明にかけて、組合員を派遣して、理事長重広厳、副理事長大堀庫次、同松尾恒八及び専務理事福田操の各私宅の塀等に「皆さん、重広厳は三菱銀行の黒い手先として、東京信用金庫に乗り込んで来たスパイです」「お宅の近くに約束を守らない大ウソツキが居ます。充分気をつけよう」その他(以上理事長宅)、「福田さんは非常に悪い人です。私の職場を乗取る気持です」その他(福田専務理事宅)「お宅の近くには約束を守らないヒドイ人が居ます。それは松尾です」その他(松尾副理事長宅)等の個人攻撃に亘る不当な内容を記載したビラをそれぞれ三、四〇枚から五、六〇枚位糊でベツタリ貼りつけ、もつて同人等の住居の外観、体載等を著しく毀損し、その名誉信用を著しく傷つけた。これらの行為は、被告金庫の代表者の個人生活と、その社会的名誉信用に重大な侵害を加えたものであり、その目的において甚だしく悪質である。

さらにこのことは一回のみにとどまらず、一二月二六日に福田芳弥理事宅同月二八日には松尾副理事長宅、同二九日には大堀副理事長及び小野田増太郎理事宅に重ねて貼付された。

(3) 執行委員その他組合員の就業時間中の組合活動。

組合は、昭和三五年九月二二日以降同年一一月一一日全面無期限ストに突入するまでの間、就業時間中被告金庫の許可がないにもかかわらず、組合活動に従事させる目的をもつて本部役員(執行部役員二一名、及び会計監事二名)についてはその大部分を殆んど連日のように、支部役員(本部役員を兼ねる者を除き約七〇名)については、その相当数をしばしば数分から数時間に亘つて、制止にもかかわらず、それぞれ職場離脱を行わしめ、もつて職場規律を紊乱し、被告金庫の業務に重大な支障を与えた。仮に一〇月五日のストライキ宣言後の組合員の職場離脱が、すべて組合機関の決定指令に基く争議行為(指名スト)としても次の(4)の無警告の時限ストの反覆実施と同様、明らかに争議権を濫用したものでこれにより被告金庫の業務を不当に阻害した点は変りない。

(4) 無警告の時限ストの反覆実施

組合は、金融機関たる被告金庫の業務の公共性と特殊性を無視して、昭和三五年一〇月一九日以降、同年一一月一一日全面無期限ストに突入するまでの間、殆んど連日数店舗ないし全店舗に亘つて数十分ないし数時間の時限ストを一斉に無警告で実施し、且つ同年一一月一一日以降は無警告にて手形交換業務の放棄までを含む全面無期限ストに突入し、もつて被告金庫の業務に甚大な損害を与えた。なお、その態様は次のとおりである。

一〇月一二日  五分―一〇分スト 一〇月一九日 五分―一〇分スト

一〇月二〇日  一〇時三〇分―一一時までスト

〃  二一日  一一時―一一時二〇分までスト

一時三〇分―一時五〇分までスト

〃  二二日  八時四五分―九時一五分までスト

〃  二五日  八時四五分―九時三〇分までスト

一二時―一時(一斉ランチ)スト

〃  二七日  一二時―四時四五分までスト

〃  二八日  一二時―一時一〇分までスト

〃  二九日  一一時―一二時までスト

〃  三一日  一〇時一五分―一一時一五分までスト

二時―二時一五までスト

一一月 一日  一〇時―一一時三五分までスト

〃   二日  一一時―一一時三〇分までスト

〃   四日  一一時三〇分―四時四五分までスト

〃   五日  一一時―一一時三五分までスト

〃   七日  一一時三〇分―一時三〇分までスト

〃   八日  一一時三〇分―四時四五分までスト

〃   九日  八時四五分―一一時三〇分までスト

〃  一〇日  一一時三〇分―一時までスト

〃  一一日  以降争議終了時まで

全店全日ストを行う。

右のごとく連日のごとくストを行い、一一月一一日からは争議終結まで全店に亘つて終日ストライキを行つたのが実状である。

(5) 賃金カツトの阻止及び賃金全額支払の強要

(a) 労働契約の性質上、組合活動のため使用者の指揮下を離れて労務の提供をしなかつた時間については、その賃金請求権を失うのは当然であり、かかる場合賃金を支払えと要求することは使用者に対して不当労働行為を強いることである。

しかるに、従来組合は争議妥結の際に、力関係によつて不当賃金の支払いを約束せしめて来たところ、今回は就業時間中の組合活動が余りにも無軌道に行われるので、被告金庫は昭和三五年一〇月四日付賃金カツト通告書をもつて、予め組合に対し賃金カツトすべき旨を申入れ、同月二五日の賃金支給に当つて、一〇月五日以降の就業時間中の職場離脱及び時限ストに対する各組合員のカツト分賃金を算定した上、これを各組合員に支給すべき賃金から控除して支払わんとした。

しかるに、組合はそれまで何ら態度を表明しなかつたにもかかわらず、突如、同月二四日付通告書をもつて、従来の慣行に反するとして、この当然の措置を頭から否定する態度を表明し、同日から翌二五日にかけて全店舗に於て多数の組合員を動員し、支店長又はその他賃金支払い責任者に不法な実力及び脅迫を加えてこれが実施を阻止し、賃金全額の支払いを強要し、もつて被告金庫の業務を妨害すると共に、甚だしく職場秩序を紊乱した。

(b) 各店における状況は次のとおりである。

(イ) 本店

本部職員については、給与支払の責任者は総務部次長岡野義雄であつたところ原告鈴木等を中心とする多数の組合員が一〇月二五日午前九時半より同一〇時頃まで、同次長を本店食堂に連行してこれを取り囲んで長時間に亘つて賃金カツトをしないよう強要して吊し上げを行つた。同次長がこれに屈せず賃金カツトを実施した上、午後四時頃給与の支払いを行わんとしたところ、本部組合員全員これを拒み、更にその後午後五時過ぎ頃より中央斗争委員を中心とする多数の組合員が同次長を取り囲み、長時間に亘つて全額支払いを強要し、脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、途中中断はあつたが、翌二六日午前一時頃に至るまで帰宅を許さなかつた。

原告鈴木は午前中及び午後五時頃よりこれを指導し、実行したものである。

(ロ) 本店営業部職員については、給与支払いの責任者は営業部長田島安太郎であつたところ、原告鈴木を中心とする多数の組合員が、一〇月二五日午前一〇時頃より同部長を取り囲んで賃金カツトをしないよう強要したが、同部長がこれに屈せず賃金カツトを実施した上、午後四時頃給与の支払を行わんとしたところ、営業部の組合員全員これが受領を拒み、その後午後七時頃より原告斉藤、大神田等を中心とする多数の組合員が同部長を取り囲み、長時間に亘つて軟禁状態に置き、脅迫的、侮辱的言辞を浴せ、カツト分賃金の支払を強要し、翌二六日午前二時三〇分頃に至るまで帰宅を許さなかつた。

(ハ) 落合支店

落合支店においては、同支店職員及び住宅金融公庫課の職員である数十名の組合員が、一〇月二四日午後四時五〇分頃より午後六時四〇分までの間、支店長足立丑之助及び住宅金融公庫課長市川宗平を取り囲んで軟禁状態に置き、脅迫的侮辱的言辞を浴びせ、賃金カツトしないよう強要し、次いで翌二五日右両名においてそれぞれ賃金カツトを実施した上給与の支払いを行わんとしたところ、組合員全員これが受領を拒み、朝から多数組合員が両名を取り囲み、特に午後五時頃からは二つのグループに別れ、支店の組合員は足立支店長を、住宅金融公庫課の組合員は市川課長をそれぞれ取り囲み、多数の他支部組合員の支援を得て、同様の手段によつて長時間に亘り、カツト分賃金の支払を強要し、疲労困憊の状態に陥つた市川課長に対しては翌二六日午前〇時五〇分カツト分賃金の仮払いを約束せしめ、又これに屈しなかつた足立支店長からは翌二六日午前一時五〇分頃カツトされた賃金を受領しておきながら、同支店長の帰宅後いやがらせの電話をかけてその睡眠を妨害し、二六日朝においても出勤した同支店長に対し同様の手段によりカツト分賃金の支払いを強要したので、遂に風邪を引いていた同支店長を疲労困憊に陥れ、数日間の安静加療を余儀なからしめるに至つた。

この行為には中央斗争委員長である森下安治、中斗委員押尾英雄等が参加し、かくして同支店、住宅金融公庫課に属する組合員はカツトしない賃金全額の支払いを不当に受けるに至つた。

(ニ) 上落合支店(現中井駅前支店)

上落合支店においては、原告斉藤等を中心とする組合員が一〇月二五日午前、午後に亘り支店長山田正紀を取り囲み、長時間軟禁状態に置き脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ賃金カツトしないよう強要し、午後四時三〇分頃遂にその意思を抑圧してこれを承認せしめカツトしない賃金全額を不当に支払わせた。

なお同支店長は、前日来の疲労と、腹痛の為前夜来食事をしておらず、睡眠も僅少状態であり、これが応接すら困難な状態であつた。

(ホ) 淀橋支店(現中野坂上支店)

淀橋支店においては、組合員の殆んど全員が一〇月二四日午後八時過ぎ頃より翌二五日午前一時頃までの間、支店長若山正之を取り囲んで軟禁状態に置き、長時間脅迫的、侮辱的言辞を浴せて賃金カツトをしないよう強要し、次いで二五日にも多数の組合員が重ねて長時間同支店長を取り囲み、同様の手段によつて賃金カツトしないよう強要し、遂にその意思を抑圧してこれを承認せしめ、カツトしない賃金全額を不当に支払わせた。

(ヘ) 新宿支店

新宿支店においては、原告大神田を中心とする多数の組合員が、一〇月二五日午前一〇時頃より約二時間に亘り支店長高瀬源吉を取り囲み軟禁状態に置き、脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、賃金カツトしないよう強要し、その意思を抑圧して遂にこれを承認せしめ、カツトしない賃金全額を不当に支払わせた。

(ト) 高田馬場支店

高田馬場支店においては、支店長小林平が病気入院中であつたため、支店長代理大野善造が給与支払いの責任者であつたところ、多数の組合員が一〇月二四日午後三時一五分頃から午後四時頃までの間同支店長代理を取り囲んで賃金カツトしないよう執拗に申入れ、次いで翌二五日も多数組合員が、午前九時四〇分頃から同支店長代理を取り囲み軟禁した上、長時間に亘り脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、賃金カツトをしないよう強要し、同支店長代理を疲労困憊の状態に陥れ、午後五時過ぎカツトしない賃金の計算書と伝票に捺印せしめ、これを不当に支払わせた。

(チ) 要町支店

要町支店においては、一〇月二五日組合員全員がカツトされた賃金を一旦受領しながら、同日閉店後組合員全員が支店長降旗多門を取り囲み、長時間軟禁状態に置き、脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、カツト分賃金の支払を強要し、その後同月二六日、二七日、二八日とそれぞれ数時間に亘つて同様の行為を行つた。

(リ) 椎名町支店

椎名町支店においては、一〇月二五日多数の組合員が午前九時三〇分頃より、再三再四支店長渡辺盛義を取り囲み軟禁状態に置き、長時間に亘つて脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、賃金カツトを行わないよう強要し、同支店長を疲労困憊の状態に陥れ午後七時三〇分頃遂にこれを承認せしめ、カツトしない賃金全額を不当に支払わさせた。

(ヌ) 池袋支店

池袋支店においては、原告菊池及び中斗副委員長細田孫三郎を中心とする多数の組合員が、一〇月二五日午前一〇時三〇分頃より支店長久保守明を取り囲み、長時間に亘つて侮辱的言辞をもつて賃金カツトを行わないよう強要し、同日の午後は、前記細田孫三郎及び中斗委員矢挽正道らを中心とする多数組合員が同支店長を取り囲み、長時間に亘り軟禁状態に置いて脅迫的、侮辱的言辞を浴びせてカツト分賃金の支払いを強要し、同支店長は疲労困憊したが、途中本部に連絡することによりその難をのがれ、帰店後再び同様な強要が行われたがついにこれに応ぜず、組合と被告本部との交渉により解決すべき旨を説得したので、翌二六日午前一〇時五〇分組合員は退去した。

(ル) 板橋支店

板橋支店においては、支店長秋田市郎が一〇月二〇日庶務係に賃金カツトの計算を行うよう命じたが、組合の指令を受けた組合員はこれを拒否し、同月二四日午後三時頃より多数の組合員が同支店長を取り囲み、午後七時頃に至るまで長時間に亘り賃金カツトをしないよう執拗に要求し、更に二五日朝カツトした賃金の支払明細書、及び伝票を係員に手渡して給料の支払いを命じたが、これを拒否し、多数の組合員が終日同支店長を取り囲み、軟禁状態に置いて脅迫的侮辱的言辞をもつて吊し上げを行い、賃金全額の支払いを強要し、同支店長を疲労困憊の状態に陥れ、遂に午後七時頃追加伝票を切らせ、カツトしない賃金全額を不当に支払わせた。

(ヲ) 大山支店

大山支店においては、原告鈴木が同支店の支店長代理という要職にありながら組合員となり中央斗争委員であつた。

一〇月二五日午後三時頃より、断続的に原告鈴木を中心とする多数の組合員が、支店長事務取扱い理事古谷滋を取り囲み、長時間軟禁状態に置いて脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、殊に原告鈴木は、同支店長事務取扱いの手に印鑑をもたせて追加伝票に捺印するよう強要し、賃金カツトをしない賃金全額の支払いを求めたが、同支店長事務取扱いはあくまでもこれに応じなかつたので、翌二六日午前〇時五分頃ようやく組合員は退店した。

(ワ) 志村支店

志村支店においては、支店長入江歓治が一〇月二四日庶務係に対し賃金カツトの計算を命じたところ、組合の指令を受けた組合員はこれを拒否し、次いで翌二五日、同支店長が賃金カツトした上給与の支払いを命じた処、同様に拒否し、多数の組合員が同支店長を午前九時三〇分頃より断続的に長時間取り囲み、軟禁状態において脅迫的侮辱的言辞を浴びせて賃金カツトをしないよう強要し、同支店長を疲労困憊に陥れ、午後七時一〇分頃遂に組合員の作成した追加伝票に捺印せしめ、カツトしない賃金を全額不当に支払わせた。

(カ) 志村坂下支店

志村坂下支店においては、原告大神田を中心とする多数の組合員が、一〇月二四日午後八時頃より支店長林辰蔵を取り囲み、長時間軟禁し、人非人、人殺し等の脅迫的、侮辱的言辞を浴びせて賃金カツトをしないよう強要し、次いで翌二五日も、午前午後と断続的ではあつたが長時間に亘つて同支店長につきまとい、同様の手段によつて賃金カツトしないよう強要し、その意思を抑圧して、夕方に至り遂にこれを承認せしめ、カツトしない賃金全額を不当に支払わせた。

(ヨ) 成増支店

成増支店においては、支店長板谷憲次が一〇月二四日庶務係に賃金カツトの計算を命じたところ、組合の指令を受けた組合員はこれを拒否し、翌二五日朝より多数の組合員が同支店長につきまとつて業務を妨害し、脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、賃金カツトしないよう強要し、同支店長の意思を抑圧し、午後四時三五分頃遂に組合員の作成したカツトしない賃金の支払明細書と伝票に捺印せしめ、これを不当に支払わせた。

(タ) 江戸川支店

江戸川支店においては、多数の組合員が一〇月二四日午後三時頃より午後六時頃までの間、支店長平沼文次郎に対し賃金カツトしないよう執拗に要求し、次いで翌二五日午前九時頃より同支店長を取り囲み、同様執拗に吊し上げを行つて同人を疲労困憊に陥れ、午後六時頃遂にこれを承認せしめ、カツトしない賃金全額を不当に支払わせた。

(レ) 浅草支店

浅草支店においては、多数の組合員が一〇月二四日午後三時五分頃より午後四時三〇分頃までの間、支店長高崎武通を取り囲み、賃金カツトをしないよう執拗に要求し、翌二五日朝より深夜に至るまで断続的に同支店長を取り囲み、長時間軟禁状態において脅迫的、侮辱的言辞を浴びせて賃金カツトしないよう強要し、同支店長を疲労困憊の状態に陥れ、同日深夜に至りこれを承認せしめ、カツトしない賃金全額を支払わせた。

(6) 非組合員に対する就労阻止その他の業務妨害。

(a) 被告金庫は、組合が昭和三五年一一月一一日全面無期限ストに突入して以来、金融機関の公共性と特殊性に鑑み、銀行法一八条、信用金庫法八九条を遵守して、業務の停滞による預金者その他公衆への迷惑を考慮し、更に店舗の閉鎖を余儀なくされることを恐れ、最少限度の業務を確保する為め、労働力の手うすな支店に対し、本部或いは他店の非組合員ないし僅かな臨時要員(定年退職者等)を派遣し、業務の補助を行わしめたところ、組合はこれらの者の就労及び業務遂行を不法な実力をもつて妨害し、またこのほか、本件争議期間中本店及び各支店において、数々の不法手段に訴えて故意に被告金庫の業務を妨害し、もつて年末に近い被告金庫の多端な業務に重大なる支障と損害を与え、預金者及び公衆に対しても多大な迷惑をかけた。(但し各支店における滞留そのものを懲戒事因としているのではない)。

(b) 以下各店ごとにその状況を明らかにする。

(イ) 本店本部

本店本部においては、一〇月一四日池袋中公園で開かれた地区労主催の「暴力排除総決起大会」に参加した組合員が、被告金庫本店に向つてデモ行進を行い、その余勢をかつて同店屋上に於て組合集会を行う目的をもつて、同日午後六時頃原告鈴木、斉藤は本店営業部長田島安太郎及び常務理事(大山支店長事務取扱兼務)古谷滋に対し屋上使用方を申入れたところ、右両名より断わられたので「お前にそんな権限があるのか」といつて暴言をはき退去したが、更に原告斉藤は無断で屋上に上り、マイクを通じて街頭及びデモ参加者に呼びかけを行い、組合員二〇名余が原告斉藤、鈴木らの指導により無断屋上に侵入し、これを不法に占拠した。

(ロ) 落合支店

落合支店においては、一〇月五日ストライキ宣言が発せられて以来一一月三〇日ロツクアウトが実施されるまでの間、組合員全員が連日出勤時又は終業時間直前に足立支店長の前に並んで「不当労働行為を止めろ」「団体交渉を開け」等と叫んで労働歌を高唱して気勢を上げ、更に一一月一一日全面ストに突入した以降は、組合員全員が二階にたむろして床を踏み鳴らす等の行為をなし、一階の職場を甚だしく喧騒ならしめて同支店の業務を妨害し、また、同支店には七名の外務員(非組合員)がおりこれらの者が内勤勤務を命じられたところ、多数の組合員がこれらの者を取り囲み悪口雑言を浴びせてその業務を妨害し更に停年退職者が臨時要員として就労することに対しても不法な実力をもつて妨害した。

(ハ) 上落合支店(現中井駅前支店)

上落合支店においては、一一月中旬より組合員全員が二階にたむろし、労働歌を高唱し、床を踏みならす等の行為をして一階の営業店を甚だしく喧騒ならしめ同支店の営業を妨害した。

(ニ) 淀橋支店(現中野坂上支店と改め移転)

淀橋支店においては、一一月一一日より組合が全面無期限ストに突入したため少数の非組合員が多数の来客に対し応接のいとまのないときを狙つて、一一月一一日、同一四日、十数名の組合員が次々に僅少の預金の払出しや預入れを申込み(さみだれ戦術と称していた)、故意に同支店の業務を妨害し、来客に対して多大な迷惑をかけた。

また同月一二日、二階にたむろした多数の組合員が床を踏み鳴らし、レコードをかけ、労働歌を高唱する等して職場を甚だしく喧騒ならしめ、同月一八日にも多数の組合員が客溜りにたむろし、労働歌を高唱する等して職場を甚だしく喧騒ならしめ同支店の業務を妨害した。

更に多数の組合員が、同月一九日本店より業務の手助けに来た伏見真一、木下馨を取り囲み、悪口雑言を浴びせてその業務を妨害し、次いで同月二一日、二二日の両日にも前記同様伏見、木下に対して両名の入店を不法な実力をもつて妨害した。また同月二二日には手洗に行つた支店長今村羊二郎の入室を入口の扉を閉めて妨害したので、止むなくガラスを破つて扉を開けんとした同支店長は負傷をするに至つた。

(ホ) 新宿支店

新宿支店においては、組合員全員が一〇月二八日同支店長事務取扱として赴任した理事監査部長永井三郎を支店長として認めず、これを排除するため、同日より一一月一一日組合が全面無期限ストに突入するまでの間、殆んど連日のように同支店長の命令を拒否し、無期限ストに突入後は、執務中の同支店長らに対しいやがらせの電話をかけ、或いは二階の床を踏みならし、労働歌を高唱する等の行為をなし、職場を甚だしく喧騒ならしめ、同支店の業務を妨害し、同月二三日には原告大神田を中心とする多数の組合員が、同支店長を取り囲んで長時間軟禁状態におき、脅迫的、侮辱的言辞を浴びせ、同月二五日の給料支給日に重ねて賃金カツトをしないよう執拗に要求し、疲労困憊に陥つた同支店長は、その為風邪をこじらせて翌二四日欠勤休養するに至つた。

また、同月二三日午前一一時頃組合員が営業室に入り非組合員川村康の就労妨害を行い、同日午後五時頃原告大神田を中心とする多数組合員が再び営業室に入り、特に前記川村に対して「日計表が二通作成されていない。住宅金融公庫の払込みの報告書が出されていない」等と詰問、罵声を浴びせた上「こんなものを係長として認めない、馬鹿野郎」といつて同人の業務を妨害し、精神的にも肉体的にも多大な傷害を与え、その為同係長をその場に昏倒するに至らしめた。

更に同月末頃、多数の組合員が本部より手助けに行つた山口敏夫を二階に連行して吊し上げ、就労せしめず追いかえすに至つた。

(ヘ) 椎名町支店

椎名町支店においては、組合員全員が一〇月一〇日頃よりしばしば数分間職場放棄を行い、その都度支店長代理橋本義彦を取り囲んで労働歌を高唱し、スローガンを唱和するなどして気勢を上げ、又、一一月一一日全面無期限ストに突入以降は、組合員全員で二階会議室を占拠し、たむろして労働歌を高唱し、スローガンを唱和する等職場を甚だしく喧騒ならしめ、同支店の業務を妨害した。

(ト) 板橋支店

板橋支店においては、多数の組合員が一一月一二日椎名町支店より手助けに来た萩沼浩二、鈴木義朗らに対し威力をもつて吊し上げ、これを追い帰し、同月一四日本部より手助けに来た小島隆を同様手段をもつて追い帰し、同月一九日本部より手助けに来た島田利昭等三名を、同じく同月二一日本部より手助けに来た佐藤作次に対し、いずれも威力をもつて吊し上げ、その業務遂行を妨害した。

(チ) 大山支店

大山支店においては、一一月二一日午前九時二〇分頃、多数の組合員が本部より業務の手助けに来た山口敏夫を威力をもつて取り囲み、軟禁し、悪口雑言を浴びせその業務を妨害した。

(リ) 志村支店

志村支店においては、一一月一六日朝多数の組合員が本部より手助けに来た山口敏夫、池袋支店より手助けに来た福田稔をそれぞれ取り囲んで、威力をもつて軟禁し、悪口雑言を浴びせ、職場を騒然たらしめ、同支店の業務を妨害し、遂に両名を追い帰すに至つた。

(ヌ) 志村坂下支店

志村坂下支店においては、多数の組合員が一〇月二七日頃本部より手助けに来た山口敏夫を取り囲み、威力を示して悪口雑言を浴びせ、その就労を妨害し、一一月一二日落合支店より手助けに来た杉山君子の入室を不法な実力をもつて妨害して就労せしめず、一一月一四日頃本部より手助けに来た長瀬隆の業務遂行を不法に妨害した。

(ル) 成増支店

成増支店においては、原告広田他多数の組合員が、要町支店より手助けに来た館野保を一一月一二日、一五、一六、一七日と四回に亘つて威力を示して長時間とり囲み、悪口雑言を浴びせる等不法にその就労を妨害した。

また原告鈴木、同広田ら多数の組合員は、要町支店より手助けに来た本岡忠志に対し一一月一五日、一六日、一七日と三回に亘り威力を示して取り囲み、特に一七日には近くの旭幼稚園に連行して悪口雑言を浴びせ、長時間に亘り不法にもその就労を妨害した。

更に、原告大神田、広田他多数の組合員は、本部より応援に来た山崎日出男を一一月八日、九日、一二日、一三日、一五日、と五回に亘つて取り囲み、或いは二階に連行して軟禁状態にし、悪口雑言を浴びせ、不法にその就労を妨害した。

同支店は、支店長代理であつた原告広田が一月二九日支店長心得の辞令を返戻し、組合に入つてからは現実に業務に従事していたのは支店長を解任された板谷憲次のみであつた。(支店長事務取扱いは古谷理事の兼任であつた)従つて、右に述べた応援手助けのものがなければ、店舗の閉鎖もやむを得ない状態に陥つていただけに、これらの就労妨害は極めて悪質というべきである。

この他、同支店においては一一月一二日頃より連日多数の組合員が二階会議室にたむろし、レコードをかけ、労働歌を高唱し、ダンス、足踏みをする等階下営業室を極度に喧騒ならしめ、その業務の妨害は著しいものがあつた。

(ヲ) 江戸川支店

江戸川支店においては、多数組合員が営業時間中であるにもかかわらず、応接室に侵入して労働歌を高唱し、或いは執務中の非組合員に種々の嫌がらせを行い同支店の業務を妨害した。特に一一月一四日午前九時から午後一時までの間、夫馬支店長を応接室に連行して軟禁し、前日同支店の非組合員を高田馬場支店に手助けにやつたことを難詰し、吊し上げを行つて同支店長の業務を不法に妨害した。

(ワ) 浅草支店

浅草支店においては、組合員全員が一一月一一日、組合の全面無期限スト突入以来二階にたむろし、しばしば労働歌を高唱し、ダンスをして床を踏み鳴らして職場を甚だしく喧騒ならしめ、また、しばしば勤務中の非組合員等を取り囲み、威力を示して悪口雑言を浴びせる等をして、同店の業務を妨害した。

(三)  そして組合は右ストライキ宣言を発すると同時に組合正副執行委員長、書記長その他執行委員、組合員中の有力メンバーからなる中央斗争委員会を組織し当時原告菊池は組合の書記長、同大神田は執行委員、同鈴木は組合の加盟する東京地方信用金庫労働組合連合会(東信連)の中央執行委員長、同斉藤は組合の淀橋支部長及び全国信用金庫労働組合協議会(全信労)常任幹事の地位にあつたため、その他当時組合委員長であつた森下安治、副委員長大場宏、新井唯夫、細田孫三郎、執行委員であつた関嗣郎、本橋正守、山本米八郎、福島芳雄、鈴木行雄、水谷邦夫、原貢男、有村政男、笹岡義雄、鈴木教一郎、阿部弘、高瀬富雄、矢挽正道、鈴木敬幸、関口保らとともに右中央斗争委員会を構成し共謀して、さきに述べた如き違法不当な各行為を企画、立案、指令、指導し、かつ自ら率先実行し、あるいは組合員の違法行為を制止すべき義務を有するにもかかわらずこれを怠りもつて、被告金庫の職場秩序を紊乱し、業務を妨害し、かつ信用を毀損して被告金庫に多大な損害を与えたものである。

六、原告広田に対する解雇事由は次のとおりである。

被告金庫は組合の賃金カツト阻止、賃金全額支払強要問題により、同支店長板谷憲次を解任し、そこで当時成増支店の支店長代理の地位にあつた原告広田に対し支店長の職務を行わせるため、昭和三五年一〇月二七日成増支店長心得に内命し、翌二八日に正式辞令を交付して任命した。しかるに原告広田は何ら異議をとどめずこれを受けたのにもかかわらず、同日組合に加入したと称して翌二九日に右辞令を返戻し、これが就任を拒否するに至つたので、やむなく被告金庫は同日支店長心得を免じ、右の業務命令違反に対し、同年一一月七日付をもつて七〇〇円の減給処分に付してこれが反省を求めた。

(1)  しかるに、原告広田は、その後いささかも反省することなく、同支店の非組合員は板谷前支店長一人となり、ためにとうてい日常業務の処理にたえられず、臨時応援者の手助けがなければ同支店の業務が停止する状態にあつたことを熟知しながら、前記(二)の(6)の(ル)に述べた成増支店における来援者の就労妨害、業務妨害を率先実行した。

(2)  原告広田は前記(二)の(1)に述べたビラ貼り等の行為については、一〇月二八日組合に加入して以来他の組合員と共に積極的に参加実行し、もつて被告金庫の業務の妨害をすると共にその信用を失墜させ、被告金庫に甚大なる損害を与えた。

(3)  原告広田は、組合の指導者たる地位にはなかつたが、成増支店の業務の停廃の危機を熟知しながら、被告に対する害意をもつて他の者に率先して前記の如き行為に出たものであつて、その責任は極めて重大である。

七、よつて被告金庫は原告らに対し原告らの前記違法な行為は被告金庫就業規則第四条、第五条二号五号七号に違反し、従つて第三四条一〇号の懲戒事由に該当するところ、情状も重いので第三五条三号により前記四のとおり懲戒解雇に付したものである。

第五、被告の反対主張(第四の三ないし七)に対する原告らの認否及び反論

一、(一) 第四の三の(一)、(二)のうち、被告金庫主張のように定期昇給及び考課配分を考慮せず昭和三五年度の月額賃金に各賞与支給基準をあてはめて計算すると別紙債権目録第一ないし第五の各二該当欄の金額となることを認めその余の主張をすべて争う。

(二) 同(三)については別表三中原告らが各役職についていること、原告広田が被告金庫主張の金員を得ていることのみ認め、その余を否認する。原告広田の収入とて不法に解雇された労働者が、その正当な就労を拒否されている間に臨時に働いて得たものであつて、民法五三六条二項但書の適用はない。

二、第四の四の事実は認める。

三、第四の五(原告広田を除くその余の原告らの解雇理由)

(一)  (争議に至る経過)に対する認否及び反論

(一) 右の事実中、(1)被告金庫が組合に対し、人事異動の協議申入れを行なつたこと、(2)組合が九月一〇日検討中である旨の回答をしたこと、(3)貸付禀議制度の改変を九月一二日志村、江戸川両支店において実施しようとしたこと、それに対して組合が被告金庫に対して被告主張のごとき態度をとつたこと、(4)各協定書、覚書が存在すること、(5)九月二九日被告金庫が書面で見解を明らかにしたこと、(6)被告金庫が組合員私宅に葉書を送付したこと、被告金庫理事者が出席しなかつたことがあること、(7)一一月九日以降団交が再開されたこと、(8)トツプ会談、都労委の斡旋が行われたこと、一一月三〇日ロツクアウトが通告され同時に争議責任の追求が行われたこと、を認め、その余の五(一)記載の事実及び評価をすべて争う。

(二)  反論

(1) 組合は昭和三三年八月三日被告金庫と「金庫は今後の労働条件その他について労働協約において明確にする。但し労働協約が成立するまでは組合と協議決定する。組合役員の移動に際しては金庫は組合の同意を得て行う」旨の覚書を結んで組合員の労働条件の変動に関する協議約款を獲得し、次に右覚書の趣旨は同三五年六月二日付協定書において受継がれ「金庫は組合が金庫における唯一の団体交渉主体であることを認め、労働条件その他従業員の利害に関する問題はすべて組合又は組合の委任を受けたものとのみ交渉し、正当な理由なくして組合の交渉申入れを拒否することができない。団体交渉はすべて公開とし、金庫、組合双方誠意を以て交渉にあたるものとする。」旨の協定となつた。このように金庫労使間においては昭和三三年以来組合員の労働条件の変動改革につき、労使間でこれを協議して実施する事前協議制が確立されていた。

(2) ところが、昭和三五年五月、被告金庫は三菱銀行から新理事長として重広厳を、又専務理事として福田操を迎え入れた。そして組合組織の弱体化、破壊策を企図し同年七月から八月にかけては組合員を含む約八〇名におよぶ人事異動案を組合に提示してきたのみならず組合が重大問題として慎重検討を重ねている間に、被告金庫は九月一二日、いわゆる貸付禀議制度の改変を一方的に実施しようとしてきた。そこで同月一四日組合は被告金庫に対し事前協議をすべく団交の申入れを行つた。

(3) 貸付禀議制度の改変や被告金庫が行なおうとする五周年記念行事がそれ自体従業員の労働条件に利害関係を有することは明らかであり、また、これまでの事前協議協定がここにおいて破られていくことは、以後引続き被告金庫が行なおうとしているより重大な合理化政策、組合破壊策に対し、従業員の協約上の保障がなくなることを意味するものであつて組合のとつたその後の行動は、まさにこの事前協議制という既得権や、組合の団結権を守るための正当な行動であつたというべきである。

(4) 九月二二日の団体交渉において、被告金庫は、もつぱら、話し合う必要がないというばかりか、なぜこの問題について協議できないのかという組合の抗議に答えられないという有様であり、同日の団交終了後被告金庫重広理事長、福田専務理事、大堀以下の四理事が姿をかくして金庫に出庫せず交渉を回避するという態度に出て団交は延期となると共にその間九月二六日には各支店長、部課長から「今般の対組合措置については理事長の方針に従い全力を尽します。万一右に違反した場合には本届書をもつて退任いたします」という辞任届を徴収して組合に対する攻撃の準備をととのえていた。

(5) 被告金庫は組合よりの九月二七、二八、三〇、十月一、三日付団交の申入れに対し九月二九日「かかる事項を議題とする団交には今後とも応じがたい」として、事前協議制を一方的に無視する態度を明らかにした。そして同月三〇日以降組合および組合幹部を誹謗する葉書を組合員の私宅に送つて組合の切崩しをはかつてきた。

(6) 一〇月四日被告金庫が従来の協定及び労使慣行に反して賃金カツト通告をなすにおよび、平和的解決を望んでいた組合も被告金庫の明白な組合破壊策に抗すべく翌五日全員一致の四〇九対〇をもつてストライキ権を確立し、右ストライキ権確立後も事態の円満な解決を望んでストライキを行なわず、ほとんど連日にわたつて団交の申入れをしてきたが、被告金庫はことごとくこれを拒否してきた。ここに至つて組合はやむをえず一〇月一九日以降時限ストに入つた。しかし一一月一一日全面ストに入るまでの延スト時間は約八時間三〇分と三回の一斉ランチストにすぎず、業務に支障をきたさない最少限の実力行使にほかならなかつた。

(7) 一〇月一九日以降も再三団交を申入れたが被告金庫はこれに応じず、ようやく一一月九日団交が再開されたというものの「団交事項にあらず」と言うのみで問題の実質的交渉はおこなわれなかつた。そこで一一月一一日組合は全面ストに入つたのである。

(8) 一一月二一日のトツプ会談においてようやく双方基本的了解に達したにもかかわらず、その翌日被告金庫は突然都労委に斡旋申請をした。基本的了解に達していることを知つた都労委が自主交渉を勧告したので、組合はまた団交を申入れ同月二五日団交がもたれたが、このとき被告金庫の態度は一変し同月三〇日にはロツクアウトを宣し、原告らを解雇し暴力団を導入するなど組合に対する一層の攻撃を加えてきた。

四、違法な争議行為(第四の五(二))に対する認否及び反論

(一)  右(1)の事実(ビラ、赤旗、懸垂幕の被告金庫店舗への貼付懸垂)について

(1) 右(イ)の事実中紛争発生後懲戒解雇に至る間に「三菱系列化反対」「理事長、専務は三菱に帰れ」というビラがあつたことは認める。「預金はしないでください」というビラの存在は否認。その余のビラの文言は不知。

(2) 右(ロ)の事実中昭和三五年九月二四日以降本店裏口から組合本部へ行く途中の階段と、組合がビラ、ポスター貼りに常時使用していた組合事務所隣食堂の壁にビラが若干貼付されたことは認める。一〇月五日後各店舗内外にビラを貼つた事実は争わない。その余の各事実は否認する。

(3) 右(ハ)の事実中一〇月五日後赤旗、懸垂幕が懸垂されたことは認める。その余はいずれも否認する。

(4) 反論。貼付ビラの内容は、まず組合員の団結を強め、その威力を示し、経営者に譲歩を求めるものであり、さらに争議要求を明らかにし、他の労働者、市民に協力を訴えるものばかりで、何ら不当性はない。また貼付方法も平穏にかつ、慎重な配慮のもとになされており、解雇の意思表示前のビラ貼りは何ら建物を毀損していない。

本件のごときビラの貼付は、今までの組合と被告金庫間の争議においてくり返されていたことであり、このことにつき被告金庫が組合員の責任を追求することはなかつたし、その処置につきすべて団交において解決するのが労使慣行であつた。それ故、被告金庫の一〇月六日付撤去申入に対し、組合は団交をもつて解決したい旨文書で申入れた。それにもかかわらず、被告は団交を拒否したものである。

赤旗、組合旗は労働者の団結の象徴であり争議時に、これをかかげることは当然許されることである。そのうえ何ら建物を汚損していない。懸垂幕についても赤旗と同様であるうえ、本件におけるその内容は団交の開催と協約の擁護を訴えるものであり何ら非難されるいわれはない。なお懸垂幕は本店の他二、三店にかけられただけである。労使慣行についてはビラ貼付についてと同様である。

(二)  右(2)の事実(被告理事長その他の理事私宅に対するビラ貼付)について

ビラが貼られたこと、ビラの文言についてはいずれも不知。その余はすべて否認する。

(三)  右(3)の事実(執行委員その他組合員の就業時間中の組合活動)に対する認否及び反論

(1) 九月二二日以降一一月一一日までの間に執行部役員が組合用務のため職場を離れた事実は争わない。但し会計監事二名が職場を離れたことはない。支部役員の一部が一〇月五日以前に若干の時間組合用務のため職場を離れたこと、一〇月五日以後同じく職場を離れたことがあることを認めるが、一〇月五日以後はストライキ行為の一部としてなされたものである。その余を否認する。

(2) 反論。一〇月五日のスト権確立以前に執行委員以外の一般組合員が就業時間中無断で組合活動に従事したことはない。勤務時間中の組合活動については、被告の組合に対する「(イ)組合員の組合活動は原則として就業時間外に行う。但し就業時間中でも右の各号の一に該当する場合にはその都度所属長に届出をなして行うことができる。(I)金庫と組合が交渉協議のため開催する各種の会合。但し正副委員長及び書記長。(II)苦情又は紛争処理のための調査及び交渉。但し正副委員長及び書記長。(III)組合の正式機関において決定した組合活動。但し執行部役員。(ロ)前項各号に該当しない組合員の組合活動はその都度金庫の承認のあつた場合、就業時間中でも行うことができる。」旨の昭和三二年一二月一四日付回答書およびこれにともなう労使慣行に従つて処理されてきたものである。

執行部役員は上長への届出により、支部役員等においては上長へ届出たうえその明示又は黙示の承認を得て組合活動を行つていた。いずれも上長から異議を述べられたり阻止されたりしたことはない。一〇月五日以降一一月一一日無期限スト突入までの一般組合員の組合活動はいずれも組合機関の決定による争議行為であり正当な団体行動権の範囲内の行動である。そしてこの離脱も、すべて明示又は黙示の承認により行なわれたものであり、それも組合業務終了後はすぐ職場に復帰して業務についており支障は生じていない。

(四)  右(4)の事実(無警告の時限ストの反覆実施)に対する認否及び反論

(1) 一〇月一九日以降一一月一一日まで時限ストを各時限ストごとの通告をせずに行つたこと、一一日以降事前通告なしに全店全日ストに入つたこと、手形交換業務を組合員が行わなかつたことがあることは認め、その余は否認する。

(2) 反論。ストライキが無通告でなされたが故に違法となることはない。まして本件においては、最初のストライキである一〇月一九日の前の一〇月五日スト権が確立されストライキ宣言が行われており、被告金庫は五日以後組合からの度重なる団交申入れをいずれも拒否し、首脳陣は出庫せず、組合誹謗文書を発送するという状況下にあり、又、それより前九月二六日すでに手形交換業務の対策をも含めて秘密りに業務通達を出しているのであつて、このような事情のもとではストの回数が過度にわたるとか、濫用であるとか無通告であるとかの非難を受けるいわれはない。

(五)  右(5)の事実(賃金カツトの阻止及び賃金全額支払の強要)に対する認否及び反論

(1) 右(a)の事実中一〇月四日賃金カツト通告があつたこと、一〇月二五日賃金支給にあたり被告金庫が賃金カツトを行わんとしたこと、組合が労使慣行又は協定に違反するとして、これに反対したこと(文書では二四日付のみだが、団交申入れ時等にしばしば口頭で反対している)、二四日から翌二五日にかけて各店舗ごとに全額支給を求めて交渉を行つたことを認め、その余を否認する。

(2) 右(b)の事実中被告金庫が主張する一一店舗について賃金全額の支給が行われたことは認める、その他各店の状況については以下の点を除きその余はいずれも否認する。

(イ) 本店本部 原告鈴木が一〇月二五日午後七時過から約三〇分間交渉に立会つたことは認める。

(ロ) 上落合支店 原告斉藤が一〇月二五日山田支店長に賃金カツトを行わないよう話したこと及び同日午後四時三〇分頃賃金が全額支給されたことは認める。

(ハ) 新宿支店 原告大神田が一〇月二五日午前一〇時より一一時頃まで交渉に立会つたこと、賃金全額支払いがなされたことは認める。

(ニ) 池袋支店 原告菊池が一〇月二五日午前一〇時半頃から久保支店長と交渉したことを認める。菊池は正午すぎ交渉を打切つた。

(ホ) 志村坂下支店 原告大神田が一〇月二四日午前八時頃より林支店長と支部組合員の交渉に参加したことは認めるが大神田参加後一時間位で交渉は打切られた。

(3) 反論

(イ) 勤務時間内組合活動について。本件賃金カツトは組合と被告金庫との間に昭和三二年一二月以降存在する勤務時間内組合活動に対する協定及びこれに基き両者間に確立されていた労使慣行に違反するものである。組合と被告金庫間には昭和三二年一二月一四日付協定(前記(三)の(2))が成立していた。これは組合の申入れに対する被告金庫の回答書であるが、被告金庫もその後これにより処理し、組合もこれに従つて組合活動を行つてきたものであつて労使間の協定というべきである。しかして右協定には保障した組合活動につき賃金カツトすると表示していない以上、その解釈上賃金カツトは行わない趣旨と解すべきもので、現実にも、右協定成立後勤務時間内の組合活動について賃金カツトが行われたことはなかつた。そして組合の勤務時間内組合活動の態様は前記(三)に述べたとおりであるから何ら不当な点はない。

(ロ) 組合の機関決定にもとづく争議行為としての不就労について。これについては争議解決時において他の諸要件と合わせて処理解決し、かつ賃金カツトは行わないことが慣行として確立していた。いまだ争議状態時に賃金カツト通告が行われたのは、従来から本件を除いてはない。

(ハ) このように、被告金庫の賃金カツト通告はこれら協定及び確立された労使慣行に対し内容において違反するのみならず、また昭和三三年八月三日付、同三五年六月二日付各協定にうたわれた労働条件その他従業員の利害に関する問題については組合と協議決定する旨の協定からみて、その手続においても違反するものである(賃金カツトが労働条件に関することであることは明らかである)。この経緯にてらせば組合が被告金庫の賃金カツト強行に対し全額支払いを求めて各店舗において、被告金庫支店長と職場交渉をおこないあるいは、交渉がまとまらない場合は一〇月分賃金の内金としての受領証を出すことによつてその異議をとどめようとしたことは当然のことである。

(六)  右(6)の事実(非組合員に対する就労阻止その他の業務妨害)に対する認否及び反論

(1) 以下(イ)ないし(ル)及び(ワ)の事実を除きその余はいずれも否認する。

(イ) 本店本部 一〇月一四日池袋中公園において地区労主催の大会が開かれたこと、右に組合員が参加したこと。大会後デモ隊が本店前を通過する際、組合員若干名が屋上に上つたことは認める、右屋上から右デモ隊に激励のため紙吹雪をまいたことはある。

(ロ) 落合支店 足立支店長に対し組合員が不当労働行為をやめて団交を再開するように抗議と要請をしたこと及び一一月一一日以降二階に滞留したことは認める。抗議と要請をしたのは始業時前、終業時後の各二、三分程度のものである。又組合員が外務員や停年退職者等に対してストライキ協力を呼びかけ説得をしたことはある。

(ハ) 上落合支店 被告金庫主張の日時より支部組合員が二階に滞留したことは認める。

(ニ) 淀橋支店 被告金庫主張の日時に組合員が伏見、木下に対し言葉をかけたことは認めるがそれは説得活動を行つたに過ぎない。

(ホ) 新宿支店 永井が支店長事務取扱いとして赴任してきたこと、山口に対し支部組合員が言葉をかけたことは認めるがそれは説得活動を行つたに過ぎない。

(ヘ) 椎名町支店 一〇月一〇日頃より前記落合支店同様抗議と要請を行つたことは認める。

(ト) 板橋支店 三名に対し支部組合員が説得活動をしたこと、その結果三名が納得してストに参加したことはある。

(チ) 大山支店 被告金庫主張の日時に山口を説得したことはある。

(リ) 志村支店 山口、福田に対し右に同じ。両名は納得して帰つた。

(ヌ) 志村坂下支店 被告主張の日時に山口、杉山を説得したことはある。

(ル) 成増支店 被告主張の日時に説得活動を行つたことはある。但しその際も原告鈴木、同広田、同大神田がすべての機会に参加していたということはない。一一月一二日頃から二階に滞留していたことは認める。

(ヲ) 江戸川支店 全部否認

(ワ) 浅草支店 一一月一一日以降二階に滞留したことはある。

(2) 反論。被告金庫は、その解雇理由の全般にわたり、金融機関が公共性、特殊性を有するが故に、その争議行為の程度、態様が制限される旨主張するが金融機関の公共性特殊性なる概念で労働基本権を制限することは許されない。被告金庫があげる銀行法一八条は、その類似規定が各種企業法に見られるところであつて、それによつて労働基本権そのものが制限される根拠とはなしがたい。(解雇理由のその他の部分にも援用する。)

支店長に対する抗議と要請(落合、椎名町支店)については、当時被告金庫が組合破壊策を強行せんとして九月三〇日から組合員の各家庭に組合を誹謗・中傷した文書を発送し、組合の連日の団交を拒んでいた時期であり時宜を得た行動というべきである。

非組合員その他臨時要員のいわゆるスト破り行為に対して、組合がその争議行為の正当性をとき、協力を求めるため説得活動を行うことは当然のことであり、又そのとき組合がとつた手段方法も以下に示すようなものであり、被告金庫の争議中における行為との対抗上正当なものであつた。組合はスト破りに対し朝の始業時前、終業時後をとらえ各支店職員通用口において平和的に説得活動を行つた。店内への客の出入は自由であり、ピケツテイングも張つていない。又説得活動の回数そのものもわずかである。

争議中の二階滞留については、滞留した各支部の組合員が争議の経過報告や学習会などの活動を行い、あるいはその際労働歌を合唱したりスローガンを唱和したもので争議中の組合活動として自然な行為である。二階を滞留場所としたのも業務に支障をきたさないがためであり、組合員が故意に二階の床を踏み鳴らして喧騒ならしめるなどという事実はまつたくない。

五、第四の五(三)に対する認否

右事実中組合が争議態勢に入るや組合役員その他有力組合員によつて中央斗争委員会が組織されたこと被告金庫主張の各組合員が中央斗争委員会を構成したことは認めるがその余を否認する。

六、第四の六(原告広田に対する解雇理由)に対する認否及び反論

(一)、原告広田は成増支店支店長代理であつたところ、賃金カツト阻止事件により同支店長板谷憲次が解任され広田が一〇月二八日支店長心得に任命された辞令を交付されたこと、翌二九日右辞令を組合に加入したため返還したこと、そして支店長心得になることを断つたこと、被告金庫が右辞令を撤回し、支店長心得を免じ一一月七日七〇〇円の減給処分に付したこと、成増支店における説得活動に参加したことはあることを認めその余をすべて否認する。

(二)、反論 原告広田が支店長心得を辞退したのは、賃金カツトをめぐる被告金庫の措置、特に従来の慣行に従つて賃金の全額支払をした支店長を簡単に解任降職するという被告金庫の方針のもとでは良心的に支店長としての職責を果しえないと感じたからであり、もつともな行動というべきである。原告広田が組合に加入したため成増支店の業務停滞の危険が生じたとしても、労働者の立場から被告金庫の組合対策を不当と考え組合員として組合の指令に従つたことをもつて被告金庫に対する信義則違反を云々されるいわれはない。

七、第四の七に対する認否及び反論

(一)、被告主張のような就業規則上の手続によりそれぞれ懲戒解雇の意思表示が行われたこと、を認める。

(二)、原告らの懲戒事由を判断するにあたつては次のような限定基準に従うべきである。

(1)、時期的には解雇の意思が表示された内容証明郵便による通告書に明記されている如く昭和三五年一〇月五日のストライキ宣言後、解雇の意思表示のあつた日までの事実に限定せらるべきである。

(2)、内容的には、解雇の意思表示をする時点での効果意思を形成するにいたつた事由となつた事実で、かつ意思表示の際表示によつて特定されたものに限られる。それ以後に主張されるに至つたものは、とうてい被告金庫において認識していた事実とは解し難い。この点から解雇理由として考慮してよい事由はせいぜい第四の五の(二)のうち(1)、(2)、(3)、(4)、と同(5)の(イ)、(ニ)、(ヘ)、(ヌ)、(カ)、同(6)の(ル)に限定さるべきである。

(3)、原告らの実行行為として特定されていない事由については、被告金庫は、原告らが中央斗争委員であつて共謀共同行為者としての責任を負うものであると主張するが、労働争議の企画、指導は本来組合の責任において行われるものであるから、組合決議の趣旨を越えて組合幹部が特別に個別的に違法な争議行為に共同行為者として関与したとか、あるいは具体的に教唆したとかいう場合にその責任を負うことはあつても、中斗指令により違法行為がなされたということだけで、中斗委員に対し「一般的な組合幹部責任」という特殊な責任を負わすことはできない。

八、本件解雇は以下に述べる事由により無効である。

(一)  本件解雇は原告らに何ら懲戒事由が存しないのにもかかわらずこれあるものとして就業規則を適用したものであり、就業規則の解釈適用を誤つた無効の解雇というべきである。

(二)  原告広田を除く原告らに対する解雇は以下(1)(2)に述べるとおり被告金庫が組合の破壊と協約上の権利の侵害を意図し、組合に対する攻撃の一環として、原告らが組合の活動家なるが故になされたものであり、また原告広田の解雇についても、以下(1)(2)に述べるとおり組合員を組合から脱落させることを意図していた金庫が広田が争議中に組合に新たに加入したことのゆえにそれに対する報復と見せしめのためになしたものである。いずれも本件解雇の意思表示は労働組合法七条一号に違反した無効なものである。

(1) 原告らの組合活動

原告菊池は昭和三二年三月組合結成と同時に組合に加入し、組合執行委員、全信労副議長などを経て昭和三五年八月より組合書記長の地位にあるもの、原告大神田は同じく組合結成と同時に加入し、青年婦人部員情宣部員などを経て昭和三五年度より組合執行委員、青年婦人部長の地位にあるもの、原告鈴木は昭和三一年組合結成の準備委員として参画し、結成と同時に執行委員長に就任して全信労幹事を併任し、その後昭和三四年五月執行委員長を辞して同年九月東信連中央執行委員長となり組合の大山支部委員の地位にあるもの、原告斉藤は組合結成準備委員として参画し、結成と同時に加入して副委員長に就任し、昭和三四年五月辞任して後は、全信労常任幹事、組合淀橋支部長の地位にある者、原告広田は昭和三五年一〇月二八日組合に加入した者であり、原告広田を除く原告らはいずれも組合結成以来その活動の中心であり、そして、そのことを被告金庫も熟知していたものであり、本件争議においても、組合ひいては原告らが正当な組合活動を行つたことは前記第五、三ないし七で述べたとおりである。

(2) 被告金庫の不当労働行為意思を示す事実

以下の諸事実が被告金庫が組合の存在と活動を嫌悪し敵意をもつており、その組合を破壊するため原告らを排除せんと考えていたことを示すものである。

(イ) 原告らの組合活動に対する被告金庫の態度

I 被告金庫は組合結成当時、理事である松尾恒八、大堀庫二らが組合結成準備委員の中心メンバーである原告鈴木、同斉藤らを個別に呼び出したうえ、圧迫を加え組合結成を中止させようとした。

II さらに、その後被告金庫は組合の正当なる諸活動に対し、「経営への不当干渉、侵犯をねらつたものであるとか、組合はスト権を確立して争議に入らねばすべて妥結する意思がないとか、又はやたらにビラをはり散らし、リボン戦術、一斉ランチ、時限ストなどを日常茶飯事のごとく行うまつたくの斗争中心主義であるとか、これまで労使間で成立した協約も右斗争中心主義によつて一方的に成立せしめられたものである」とかのいわれなき非難を加えている。

III 本件争議は被告金庫の組合破壊、既得権の侵害に端を発するものであり、本件解雇もその理由が存在しないばかりか、被告が主張する解雇事由も抽象的で変動し幹部責任を追求したものであること、その他解雇の時期、被解雇者の組合における地位(一一月三〇日には原告らの他に委員長、副委員長三名、執行委員一名の合計九名が解雇された)などからも被告金庫の不当労働行為の意図を知ることができる。(その詳細は第五の三ないし六のとおりである)

(ロ) 原告らを解雇して以後の被告金庫の態度

I 被告金庫は本件争議について斡旋にあたつていた東京都地方労働委員会経営者側委員三船崎俊吾に金二〇万円の支給をして、本件解雇を維持しようとした。

II 被告金庫は昭和三五年一二月に入るや被告金庫要町支店をはじめ他数店に暴力団を導入し、これを使用して当時各支店に滞留していた組合員を暴力で追い出しその結果組合員に多数の負傷者を出した。

III その後も、組合員をなかなか昇格させず、人事部次長自ら、組合員は係長にしないと公言し、活発な組合員とみられる者を外勤や出納、当座という労働条件の悪い場所にまわしたり、短期間に数度の配転をすることにより職場での活動の根を断つなど、被告金庫は相変らぬ組合員に対する差別意思をあらわしている。

第六、第五の八(解雇無効の主張)に対する認否及び反論

一、第五の八(一)は否認する。

二、(一)、第五の八(二)冒頭の事実は否認する。

(二)、同(二)(1)のうち原告大神田が組合青年婦人部員、情宣部員などを経て昭和三五年度より青年婦人部長に選任されたこと、原告鈴木が組合結成準備委員として参画したこと、全信労幹事に選出されたこと、原告斉藤が組合結成準備委員として参画したことは不知。その余の原告らの組合歴は認める。従つて原告らが組合活動の中心であつたかもしれぬが、その組合活動をすべて被告金庫において熟知していたというわけではない。

(四)、同(二)(2)(イ)(I)は否認する。同(II)は原告主張のような非難を加えたことは認める。まさに組合の性格はそのとおりである。組合は、その主張の一つとして従来争議においてビラのはり付けや職場離脱などについての責任や、賃金カツトの有無につき、各争議終了時に団交によつて処理し、かつ責任は不問とし賃金カツトも行わないという慣行が労使間にあつたというがこれとて斗争が更に拡大することを虞れた被告金庫が組合の圧力に屈して、やむをえず協定を結んだにすぎないもので、双方の平等の立場からの合意ではなく労使慣行とみなすべきものではない。

同IIIは争う。同(ロ)(I)は金員の交付は認めるが職務に関連してなされたものではない。同(II)は争う。臨時警備員は年末をひかえ、重要取引先や預金者が金庫は我々のものなりとの自衛手段として派遣してきたものである。たしかに被告金庫の統制に服したが、不法占拠や、就労妨害を排除するため説得を行わせたもので先制的に暴力を振わせたことはない。

同(III)は争う。近時昇格については各級昇格試験制度を設けており組合員は一人も受験していない。従前も能力、勤務成績など勘案のうえ公平に昇進させていた。

第七、証拠〈省略〉

理由

第一、請求原因一ないし三項の事実、請求原因に対する反論のうち四項の事実は当事者間に争いがない。

第二、そこで右解雇の効力について判断する。

一  本件争議の経過

当事者間に争いのない事実、成立に争いのない甲三、五七ないし六三、六五号証(以上のうち枝番号のあるものはすべてそれを含む)六八号証の一ないし三、同じく成立に争いのない乙五六ないし五九、六三ないし六六、一九六ないし二〇三号証、証人細田、大沢、大堀、重広、福田、古谷、中尾、吉村、斉藤(道)の各証言及び原告斉藤(一、二回)、菊池、大神田(一、二回)、広田、鈴木の各本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められ、前掲証拠のうちこれに反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(1)  被告金庫は、昭和三五年五月(以下において特に断らない場合は昭和三五年である)、いわゆる経営施策の近代化・合理化により事業の発展を期するため三菱銀行との提携を行い、同月一六日同行より新理事長として重広厳、専務理事として福田操を迎え入れた。

(2)  右提携につき、当時業界紙である産業金融新聞に、重広福田談話として、金庫と三菱銀行とのその後の人事業務上の結びつきや合理化政策、三菱からの中古器械の導入、結合対策などが大々的に取上げられたことなどから、金庫の部課長ら職制をも含め従業員間には、金庫の将来につき不安感がつのつていた。

(3)  七月中旬金庫は監督官庁からの勧告事項である業務の刷新と事務能率の向上をはかるため本部機構の改革を企画し、それにともなう従業員八〇余名(組合員多数を含む)の人事異動を予定し、「組合役員の異動に際しては金庫は従業員組合の同意を得て行う、但し組合役員とは執行部役員、本部会計監事、支部長、支部委員とする」旨の昭和三三年八月三日付被告金庫組合間の覚書の精神に従い、組合に対しその協議の申入をした。

(4)  組合としてはこの人事異動案が将来の合理化の端緒であり、(イ)現場従業員の人員削減をともなうため労働条件に多大の影響をもつと考えられること、(ロ)異動案には原告鈴木、同斉藤をそれぞれ大山支店長と淀橋支店長代理に昇格させる案が含まれており、組合の活発な活動家である両名が非組合員となつてしまい組合活動に支障を生ずるおそれがあること、(ハ)ちようど七月は組合役員の改選時期であるため組合事務引継ぎに日時を要することなどの理由から慎重対処することとし、金庫に対し八月六日「役員改選による事務引継完了しだい速かに交渉に入る」旨の、又九月一〇日「単なる人事異動として処理できる問題ではないと判断し、目下鋭意検討中であり速かに回答したいと考える」旨の回答書及び通知書を発して被告金庫の申入に答えた。

(5)  金庫は、右事務能率の向上の一環として、九月一二日貸付禀議制度の改変を江戸川・志村両支店において試験的に行おうとした。その内容は支店長が決裁しうる貸付限度額一〇万円を越えて貸付を行うときは、各支店長が書類を持参して本店へ行き承認を得るという従来からの事務処理上の煩しさを改めるため禀議書の便送により処理することとし、そのため、禀議書の控えをリコピーにより計二部作成しようというものであつた。

(6)  金庫と組合間には「金庫は今後の労働条件その他については労働協約上において明確にする。但し労働協約が成立するまでは組合と協議決定する」旨の昭和三三年八月三日付覚書及び「東京信用金庫は東京信用金庫従業員組合が、金庫における唯一の団体交渉主体であることを認め、労働条件その他従業員の利害に関する問題はすべて組合又は組合の委任を受けたもののみと交渉し、正当な理由なくして組合の交渉申入を拒否することができない。団交はすべて公開とし、金庫・組合双方誠意を以て交渉にあたるものとする。」旨の昭和三五年六月二日付協定があり、これに従い、従来から労使間に、労働条件その他従業員の利害に関する問題についての事前協議制が協定として存在し、従来から従業員の利害に関する問題については労働条件に直接かかわらないものについても事前協議をかさねていた。

(7)  金庫は貸付禀議制度の改変は日常の一部事務改善にすぎず志村、江戸川両支店において試験的に実施するにすぎないから、事前協議を要するものではないとし、実施にあたり組合に対し協議の申入をしなかつた。

(8)  また、当時金庫は合併五周年記念行事の実施を準備しすでに芸能人、会場の予約などを進め日曜をあてるため従業員の動員をも予定していたが、いまだ具体化していない段階であるとして、組合に対し協議の申入をする意思を有していなかつた。

(9)  組合は、貸付禀議制度の改変は、従業員の労働条件その他利害に関するものであるし、右(2)(3)のような情勢の中で将来の合理化政策への一環であるとして重視し、金庫が一方的にこれを行うことは、右事前協議制に違反するとして、九月一二日金庫に対し、この点につき団交の申入をした。

(10)  そして、九月二二日、組合は「組合は金庫の合理化推進企画には一さい従業員を参画させないことに決定したので申入れる。尚合理化についてはすべて我々の労働条件に関係するものと考えるので、六月二日付協定書に基き全て事前に協議決定するよう申し添える」「合併五周年記念行事を計画準備中とのことであるがこれは従業員の労働条件及び利害に関する問題であるから当然協議決定しなければならない。従つてこれをみるまで準備の中止を申入れる」旨の意思を明かにした。

(11)  九月二二日、午後四時頃から金庫本店本部会議室において右一二日の申入にもとづく団交が開かれたが、貸付禀議制度の改変が、事前協議の対象となる労働条件であるかにつき、労使双方見解が一致せず、結論を得ぬまま同八時三〇分頃休憩に入り、そのまま同一一時すぎ、金庫が、「労働条件」の範囲につき後日文書で回答したいということで同日の団交を打切つた。金庫における団交は右六月二日付協定にもうたわれているごとく従前からいわゆる公開団交という形式がとられており、この日も約八〇名の組合員が傍聴者としてこれに参加し、時に「協約違反だから金庫は謝れ」といつた語気するどい抗議や傍聴人からの野次もあり、喧騒にわたることもあつた。

(12)  その後組合は引続き九月二六、二七、二八日と、二二日の団交の続行を申入れたが、金庫はこれに対し後日文書で回答するから延期願いたいと回答するのみであり、二九日に至りようやく「…(一)昭和三三年八月三日付覚書、昭和三五年六月二日付協定書に記載された事前協議の対象となる労働条件の範囲は賃金(給与)諸手当、勤務時間、休日、休暇及び災害補償など職員の待遇に関するものと解している。(二)従つて五周年記念行事の件、合理化推進の件はいずれも組合員の労働条件に関することではなく金庫業務の運営上必要と考えて行うものであつて、組合と事前に協議を必要とすべき事項ではないと解している。よつて事前協議の範囲に含まれない事項について事前に組合と協議を行わなかつたことは協定書及び覚書に違反したものではないのみならず、今後もかかる議題の団交には応じ難い。組合の良識ある善処を望む」旨の見解を明かにした。

(13)  組合は、九月二九、三〇日、一〇月一、三、五日と団交の再開を申入れたが、金庫は右九月二九日付見解を援用して、ことごとくこれを拒否してきた。

(14)  その間、金庫は争議対策本部を組織し、二六日、各支店長、本部課長から「今般の対組合措置については理事長の命に従うこと、もし従わない場合は本届をもつて退職します」旨の誓約書を徴し、同日争臨通達第一号をもつて各支店長ら職制に対し、ストライキに入つた場合の業務処理につき対策を指示した。又二九日以降約一週間にわたり組合との摩擦をさけるためと称して、福田専務理事を除き、他の理事者らは金庫に出勤せず電話により業務を行つた。但し組合は、右誓約書の件を後記賃金カツト阻止行動の際に、通達の件は、本件訴訟中にそれぞれ知つた。

(15)  さらに金庫は一〇月四日、「従来当金庫においては就業時間中の組合活動に対する賃金カツトを行わなかつたのですが、近時就業時間中の組合活動をするにあたり所属長の許可を得て行うことすらも励行されていない実状にかんがみ、この際労働法の精神を遵守し就業時間中の組合活動に対する賃金はすべてカツトすることにいたしましたので通告いたします。なお、今後組合用務で職場を離れる場合はこれを明確にし所属長の指示を受けられたい」旨の賃金カツト通告を行つた。

(16)  金庫は一〇月一〇日頃から組合員の私宅へ、団交を拒否している理由や、賃金カツトの正当性を説き、組合を非難する葉書を郵送して組合員に対する説得を行つた。

(17)  一方組合は、九月二四日頃から後記のようにビラ貼りによる情宣活動を開始し、二九日には金庫に対し「団交を再開し誠意をもつて問題解決を計るまで残業宿日直を拒否する」旨通告し実行した。(なお金庫と組合との間にはいわゆる三六協定は存在しない)

(18)  そして一〇月四日従来なされたことがない賃金カツト通告を受け更に五日の団交申入が拒否されるに及び、それまでスト権の確立については慎重な態度をとつていた組合も、遂に同五日本店営業室において開かれた組合緊急総会において満場一致で「三菱独占資本の為の合理化反対・団交を開け・労働協約を守れ」とうたつたストライキ宣言を採択した。

(19)  右ストライキ権の確立後直ちに組合員の承認のもとに組合三役以下中央執行委員(計約二三名)その他組合活動家により中央斗争委員会が組織された。そして中斗委員中組合委員長、副委員長三名、書記長である原告菊池、全信労常任幹事であり組合淀橋支部長である原告斉藤、東信労委員長である原告鈴木、組合中央執行委員押尾それに総評全国一般東京地本争対部長大沢栄一により戦術会議が設けられ(時期によりメンバーに異動がある)、具体的争議戦術などを立案のうえ、中央斗争委員会の決定を得て具体的行動に移されていた。(以下において認める各行為のうち特別の判断を加えないものは中央斗争委員会決定のもとに組合の意思により行われたものと認める趣旨である)

(20)  組合は一〇月六日以降一八日までほとんど連日にわたつて「労働協約について、今回の紛争について平穏りに事態を収拾する具体的方策について」団交の申入を繰返したが(ただし七日は各店舗貼付のビラの処置について併せ団交申入をしている)、それに対し金庫は少人数による予備会合には応ずる用意があるが従来の形式の団交には応じられないとし、又貼付ビラの処置を団交議題としては応じられない(一〇月七日)、労働協約の条項についての解釈に対し、組合が異見をおしつけるための団交には応じられないとして、ことごとく右組合からの団交申入を拒否してきた。

(21)  組合は一〇月一九日従来から六月二日付協定書により協定されていた「公開団交」の原則をすてて金庫に譲歩し、組合役員と共斗団体役員合計約三〇名出席による団交の申入を行つたが、被告金庫はこれにも応じなかつた。組合は一〇月五日にストライキ権を確立後現実にはストライキを行わなかつたが、この一九日から後記のとおり時限ストを行うに至つた。

(22)  金庫は前記(15)の賃金カツト通告に基き、一〇月二五日支給の賃金額より一〇月五日以降の就業時間中の職場離脱分及び時限ストに対する各組合員のカツト分賃金を算定したうえ、これを控除して支払わんとした。組合は賃金カツトが現実に実施されそうなのを知り二四日、賃金カツトは従来の慣行に反するとしてその見解を文書で明らかにした。そして同日より翌二五日にわたり後記のとおり賃金カツト阻止行動を行つた。金庫は二八日、賃金カツトの行われなかつた一一店舗の賃金支払責任者である支店長を解任した。

(23)  組合は一〇月二六日以降も一九日同様少人数による団交の申入を繰返し被告金庫からこれを拒否されてきたが、膠着状態を打開しようとの機運が双方に生じ、ようやく一一月九日に至り、実に約四五日ぶりに被告金庫がこれに応じ、団交が再開された。そして組合は、団交における事態の有利な解決を求めて一一日より全店全日ストに突入した。

(24)  右の団交においては、双方の主張する妥結案にかなりのひらきがあつて、必ずしも事態は進展しなかつたため、一一月二一日夜都内豊島区所在長崎神社において金庫側重広理事長、大堀副理事長、松尾副理事長、組合側から森下委員長、原告斉藤、押尾、大沢各中央斗争委員のみ出席のもとに妥結のためのトツプ会談が行われた。

その席上、事前協議制問題についての労使協議会の設置と団交形式の改善につき大略双方了解点に達し、理事者全員の納得を得るためには、組合が今回の争議につき、一応陳謝の意を表することとし、それを機会に更に双方話合いのうえ労使関係の向上をはかろうとの意見の一致をみた。そこで、組合側押尾において、その文案の作成検討をすることとして、同日のトツプ会談は終了した。

(25)  同日右トツプ会談後、午後九時頃、組合が中央斗争委員会を開いていた都内豊島区池袋の旅館「まつや」へ、金庫清水人事課長から、原告斉藤あて、金庫側も右(24)の方向で事態収拾に踏み切る決意を固めた旨の、又組合側の労をねぎらう趣旨の電話連絡があつた。

(26)  ところが、被告金庫は翌二二日、突然東京都労働委員会に対し斡旋の申請をし、同月二四日双方事情を聴取されたが、トツプ会談も開かれ、もう一努力により自主解決がなされうると見た都労委から、結局「今一度労使双方話合つてみるように」との勧告を受けた。右勧告に従い翌二五日又団交がもたれたが被告金庫の態度は一変し話合いは再び膠着状態に入つた。

(27)  一一月二九日、都労委会長が個人斡旋の労をとることを申入れてきた。双方一応これに応じたが、先二七日頃からロツクアウトと組合活動家の解雇の決意を固めていた金庫は実質上この斡旋に応じず、翌三〇日、金庫は組合に対しロツクアウト通告をなし原告ら(広田を除く)組合幹部の解雇をした。

(28)  その後翌三六年五月六日都労委の斡旋によりようやく本件争議は解決した。

二  本件争議目的の正当性

被告金庫は、組合の本件争議目的を、ことさらに経営権の侵害を目的とした違法なものであると非難し、本件争議の発端である貸付禀議制度の改変を一方的に行おうとしたことについては、これを要するに、(イ)事前協議制は存在しない、(ロ)たとえ存在するも協議の対象たる事項ではない、(ハ)従来からの組合の金庫に対する非協力的態度からすれば禀議制度につき協議をしなくとも労使間の信義に反しない、と主張する。よつて右一の事実に基き、まずこれらの点につき判断する。

まず、組合と被告金庫との間に、「労働条件その他従業員の利害に関する問題」につき事前協議協定が存在することは一の(6)において認めたとおりである。

貸付禀議制度改変とは禀議書の控えをリコピーにより二部作成すること(一の(5))、その当時は志村、江戸川両支店において試験的に実施すること(一の(7))、にすぎないとはいえ、それ自体担当従業員の労務内容に変化を生ずることは否定しえないところであり、さらに、前記認定のように(一の(6))広く従業員の利害にかかわる事項についても事前協議の対象として扱つてきた(成立に争いのない甲九号証の一、二)従来の労使間の経緯に照せば、禀議制度の改変も又、被告金庫と組合との間においては、「労働条件その他従業員の利害に関する問題」に入らないと速断すべきではない。

九月二二日、一度団交が開かれたとはいうものの、その後一〇月一九日に至るまで、被告金庫は、貸付禀議制度改変は事前協議の対象にはあたらぬとして団交を拒否してきたが(一の(11)ないし(13)、(20))、組合が貸付禀議制度を経営合理化策の一環につながるものとして、これの協議を求めて団交申入をしてきている(一の(20))以上、それが、協議の対象になる事項であるか及び金庫の経営合理化とに関連するか否かという疑義の解決自体一個の団交事項として、被告金庫は組合の団交申入に応ずべきであつた。

さらに、一の(1)、(2)において認めたような事情のもとでは、組合が人事異動や合併五周年記念行事の実施に警戒心を示し、とくに人事異動の問題につき慎重な態度を示した(一の(4)、(10))こともあながち不当とは言い難い(九月二二日の組合の声明も、全く非協力を宣言しているのではなく、用語に多少の強さはあるが、その真意が協議を要求することにあつたことは、それぞれの通告書末尾の文章の表現上からも明らかである。)から、人事異動の問題につき組合が協議に応じなかつたからといつて、その次に生じた本件貸付禀議制度の改変問題につき被告金庫において団交申入れを全面的に拒否し組合の意思を問うことなく一方的に行つてよいとは言えない。また団交における組合側の態度は一の(11)のとおり非難の余地はあるが、公開団交が協定化されている(一の(6))以上、一方的に公開形式を否定して、団交そのものに応じようとしないのもまた正当な態度とは言い難い。

このように見てくると、本件争議は貸付禀議制度の改変問題をその発端とし、被告金庫が、従来から労使間に存在した事前協議制及び公開団交制を否定し、さらに従来行われたことのない賃金カツトの実施を明らかにした(一の(15))ことに紛糾の原因があるものと言うべく、組合が協定違反を非難し、団交による事態の解決を求めて、そのために前記のとおりの、あるいは以下において認定するような組合活動・争議行為に出たものと解され、その手段・方法の正当性はしばらくおくとしても、その目的自体(個々の行為の具体的目的については再度個別的に考察する必要はあるが)は正当なものであつたと認められる。

三  そこで、被告金庫の主張する原告らに対する解雇事由について逐次判断する。

(一)  被告金庫の店舗に対するビラの貼付、赤旗の掲揚、懸垂幕の懸垂

1 証人板谷、高瀬、山田、久保、福田、古谷、林、岡野の各証言および成立に争いのない甲第二八号証の一ないし三、甲三一、四三号証、乙五七号証、原告の大神田本人尋問の結果により成立の認められる甲六九号証の八三、八五、八六、八八、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙一〇〇ないし一一六、一三四ないし一四四、一五〇ないし一七〇、一七二、一七三、一八三ないし一九五号証によれば次の事実が認められ、前掲証人の証言のうちこの事実に反する部分は採用しない。

(1) 組合は、九月二四日頃から本店の二階通路・階段・食堂・役員室の壁に、また浅草・池袋・志村坂下など数支店の二階食堂通路の壁などに(以上はほとんど客の目にとまらない所で枚数もさほど多くない)、次いで一〇月五日のストライキ権の確立と前後してほとんど全店舗の建物正面・側面・営業室内・食堂などの壁、ガラス、戸また机椅子の背などに多数のビラを貼付した。その大きさはほとんどワラ半紙大で貼付方法は糊付であり、中にセロテープを用いたものも散見された。

(2) その内容は大略次のようなものであつた。a「三菱系列化反対」「三菱のための合理化反対」b「協約を守り団交を開け」c「団結」「組合の興廃この一戦にあり」など組合の団結を誇示するものd「賃金カツト反対」e「都民の皆さん労働者のために協力してください」f「理事者はやめろやめろ」「理事長は三菱に帰れ」g「ロボツト支店長、係長不信任」「三係長ボイコツト」「我輩は犬である。三係長」「非組合員の皆さん小使いにはならないでください」「泥棒泥棒」「デマ宣伝に暗躍する非組合員」などであつた。ビラのうち大多数は右のうちabcおよびこれに類似のものが占めていた。gについてはほとんどが要町支店であり客の目につかない所に貼られたもので一〇月二八日の支店長の解任後、あるいは全面ストライキに入り非組合員のみが就労するようになつて多くなつたものである。

(3) 赤旗・懸垂幕については、組合は一〇月五日以降引続き本店では「団体交渉を即時開催せよ」という懸垂幕一本、東信労・豊島労協などの組合旗・赤旗約一五枚を、上落合支店では「三菱のための信用金庫にはなりたくない」「協約違反を反省せよ」という文言の懸垂幕及び組合旗一枚を新宿支店では「団結を強化し我等の権利を守ろう」という懸垂幕一本と赤旗二、三枚を、板橋、椎名町支店では組合旗、赤旗など四、五枚を、池袋支店では赤旗一枚をそれぞれ各店舗屋上から店舗正面、側面に懸垂した。

(4) 被告金庫は組合に対し九月二四日、一〇月六、一〇、二四日とたびたびビラ及び懸垂幕などの撤去を要求し、組合は「組合がビラ、懸垂幕の取扱いにつき自主的に処理すべきものであるが、事態解決の方向とあわせて協議することにやぶさかでない…」として団交において合わせ協議することを申入れたが、金庫は違法な争議行為を利用して事態を有利に解決しようという組合の企図があきらかであるとして、これを拒否した。

各支店においては支店長ら非組合員が、あるいは一〇月二〇日以降は人を雇つて、撤去作業をしたが、組合はそのあと更に右同様ビラの貼付をかさねた。

2 右事実に基く判断

(1) ビラ、懸垂幕の記載内容について

イ af及びその類似のものは、三菱銀行との業務提携反対と三菱から入つた役員の退陣を唱えるものであるが、前記一(1)(2)の経緯にてらし、通常の労働者の会社側の動向に対する認識の仕方として又それに対する反撥の仕方として、多少の誇張はあるが一応首肯し得るものであつて違法とは言えない。

ロ b及びそれに類似のものは、協約の遵守と団交の再開を要求するもの、c及びそれに類似のものは組合員間の団結の維持強化をはかるためのものd及び類似のものは賃金カツト反対を唱えるものe及び類似のものは一般市民に協力を呼びかけるものであつて、本件においてはそれぞれ何ら違法性はない。

ハ g及びそれに類するものは、スト中に就労した非組合員を非難し協力を呼びかけるもの、賃金カツト事件で解任された支店長にかわつて支店長心得に任命された者に対し不信の意を表明しているもの、その他であるところ、用語に穏当を欠き行きすぎのきらいはあるが、異常な紛争状態時のものであること、ほとんどが店内の一般顧客の見えない所に貼付された(1の(3))ことを考えると、その違法性は必ずしも大きいとは言えない。

ニ 懸垂幕の文言については非難の余地はない。

(2) ビラ、懸垂幕、赤旗の貼付、懸垂、掲揚の場所、方法などについて

イ 使用者の意思に反し企業施設にビラを貼付し、懸垂幕、赤旗を懸垂、掲揚することは使用者の施設管理権の侵害となることは明らかである。しかしながら争議態勢時に、組合が団結の維持強化、一般市民への協力要請その他情報宣伝活動のためビラ貼りなどに企業施設を利用することは、欠くことのできない方法となつているから一概にこれを違法視すべきものではない。

ロ たしかに、ビラ貼付については反覆実施され乱雑でありもはや、団結を示威したり、第三者に対し訴えかけるということよりも、貼付それ自体が目的となつているが如き状態であり許容される程度を越えるきらいがあるが、赤旗や懸垂幕については店舗屋上からつるされたもので簡単に取りはずし可能であることがうかがわれ何らその懸垂方法には非難の余地はない。

ハ 被告金庫は、ビラ貼付や懸垂は、専ら第三者に不信感を与える目的であつたと主張するがこれを認めるに足る証拠はないし、特に貼付、懸垂掲揚の故に、争議行為中であることから当然予測される以上の重大な損害支障が被告金庫に生じたとの証拠もない。

ニ これに加え、先に認めた争議経過とくに被告金庫の団交拒否の態度に対する対抗手段としての面を考慮すれば、結局組合の本件ビラ、赤旗、懸垂幕の貼付、掲揚、懸垂行為は全体として、その違法性は大きいとはいえない。

(二)  被告理事長その他理事私宅に対するビラ貼付

1 証人大堀、福田の証言、成立に争いのない甲四三号証、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙八三ないし九九号証によれば次の事実が認められ、右事実に反する証人細田の証言部分は信用しない。

(1) 組合は一〇月一八日深夜から翌一九日未明にかけて理事長重広厳、副理事長大堀庫次、同松尾恒八、専務理事福田操の各私宅の塀、門、車庫扉、付近電柱などにワラ半紙大のビラを各約六〇枚位糊付貼付した。

(2) ビラの文言は次のようなものであつた。重広宅は「重広さんの御主人は不法行為で勤務先の従業員をいじめる悪い人です」「従業員の生活と人権をふみにじる理事長を突き上げよう」「……従業員に食堂を使わせませんこんなことが許されるでしようか」(以上の類似文言多数)「お宅の近くに約束を守らぬ大うそつきが居ます充分気をつけよう」「皆さん重広厳は三菱銀行の黒い手先として東京信用に乗込んできたスパイです」「東京信用の癌は重広厳です」というものであり、松尾宅は、「従業員の人権を尊重せよ」「松尾さん約束を守つてください」「松尾さんは従業員に食堂を使わせない悪い人です」(以上の類似の文言多数)「松尾恒八氏は中小企業労働者を裏切ろうとしています」などであり、福田宅は、「福田さんは組合との約束を守らぬ悪い人です」「従業員の人権を尊重せよ」「福田さんあなたはひどい人ですなぜ我々が食堂を使つてはいけないのですか」、「……悪い人です私達の職場を乗つ取る気持です」などであり、大堀宅も大略同内容のものであつた。

(3) 右ビラ貼付に対し金庫は組合に対し、一〇月二四日「かかる行為をかさねて行わぬよう厳重抗議する」旨申入れた。

(4) 組合はその後原告らが解雇されるまでは私宅へのビラ貼りは行わなかつたが、一二月末頃又二、三の理事宅に同様ビラを貼付した。(しかしこれは解雇の意思表示後のことであり解雇事由とはなし得ない)

2 右事実に基く判断

(1) 金庫職制に対し、その私人としての生活の場に、組合が抗議宣伝活動をなすこと自体は、一概に違法視すべきではないが、本件のように、私宅周囲に、「重広厳は東京信用の癌です」で代表されるごとき内容の個人を誹謗するビラを貼付したことは、当該理事らの私人としての生活の平穏を害するものであつて違法とすべきものである。

(2) しかしながら、金庫役員らは、その以前から金庫に出勤せず電話指示により業務及び争議対策をとつているような状態にあつたこと(争議経過(14))、右ビラ貼り行為の四、五日前に、金庫が組合員私宅へ賃金カツトの正当性を説き組合を非難する葉書を郵送していること(争議経過(16))、ちようど組合が公開団交形式をすて、代表者のみによる団交の開催の線まで譲歩した時期とも合致すること(争議経過(21))、右(4)のように、原告らが解雇されるまでの間は、私宅に対するビラ貼りはこれ一度にとどめられていることとをあわせ考えれば右(1)の違法性は減殺されるものといわなければならない。

(三)  執行委員その他組合員の就業時間中の組合活動

(1) 九月二二日以降一一月一一日全日ストに入るまでの間、ほとんどの執行部役員約二〇名(但しその中に会計監事二名が含まれていたかについては明らかにならない)が組合活動のため勤務時間中に各職場を離れたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によればそれが、ほとんど連日かつ終日であつたことが認められる。

(2) また約七〇名の支部役員が一〇月五日スト権確立以前組合活動のため職場を離れたことは当事者間に争いがなく、又一〇月五日以降も同様一部の一般組合員をも含め、組合活動のため、一斉時限スト以外に職場を離れたことは証人板谷、林の証言によつて認められるところである。

(3) 原告らは、勤務時間中の組合活動については、昭和三二年一二月一四日付金庫回答書(内容については事実第五の三の(三)(2))及びこれにともなう労使慣行により処理されてきたもので、今回の各職場離脱も執行部役員は組合の正式機関において決定した組合活動であるから、各所属上長(支店長)に届出(明示又は黙示の承認を得て)をなし、支部役員、その他一般組合員は同じく各上長の明示又は黙示の承認を得て活動していた旨主張する。

証人吉村の証言、原告の斉藤本人尋問の結果及び成立に争いのない乙三二ないし五〇、二〇四、二〇五号証によれば、金庫労使間においては、昭和三二年頃から勤務時間中の組合活動について紛議が生じ、組合は三二年一二月一四日金庫回答書の内容を不満とし、数次の団交が繰返されたが意見の一致を見なかつたことしかしながらその後、結局組合は最少限度右回答書のとおり保障があるものとして、右回答書の内容に従つて活動し、又被告金庫においてもそれにつき何ら異議を述べていなかつたことが認められ、(安保反対統一行動への参加は、一般組合員も結果的には届出だけで行つているが、これとて組合が保障されている権利以上の力を行使しようとしたことを示すにすぎない。)右証人吉村の証言のうちこの認定に反する部分は採用できず、他にこれをくつがえすに足る証拠はない。右掲記の証拠によつても、今回の紛争状態に入つて以来離脱した組合員がすべて右回答書の趣旨に従つたとは認め難いが、しかし一方被告金庫においては、一〇月四日「組合用務で職場を離れる場合はこれを明確にし所属長の指示を受けられたい」との通告を発したにとどまり、各所属長において個々の組合員の職場離脱行為については、これを制止したり、許否の態度を明確に表明したわけでもないことがうかがわれる。

(4) また、証人高瀬、山田の証言によつてうかがわれる各店の一〇月五日以降同月二〇日までの賃金カツト額から推せば、一〇月五日の前後を問わず(一〇月五日以前はそれ以後よりわずかであること被告自ら主張するところである)執行部役員以外の組合員の職場離脱時間は一斉時限スト以外はほんのわずかであり、また、証人金元の証言によれば組合活動後、職場に帰つて残務を処理し終えていたことが認められる。

(5) また、右の職場離脱は、事実の経過において認定したような労使間の紛争状態下において組合の斗争体制の準備など組合用務を行うためなされたものであるから(故らに、必要以上に職場離脱を行つたとの証拠はない)、広義の争議行為として通常時よりは労働者に対する使用者の指揮命令権が制約されるものと言うべく、(3)、(4)の事情と合わせ考えれば、多少の職場秩序の混乱を考慮しても、なおあながち違法視すべきものではない。

(四)  無警告ストの反覆実施について

1 証人吉村、高瀬、細田の証言、及び証人吉村の証言により成立の認められる乙一、二四号証によれば次の事実が認められ、細田の証言のうち右事実に反する部分は採用しない。

(1) 一〇月五日、ストライキ権が確立されて以後、各店舗により多少の相違はあるが概ね次のとおりストライキが行われた。

月  日    ストライキが行われた時間

一〇月一九日(水) 五分~一〇分(開始、終了時不明)

一〇月二〇日(木) 一〇時三〇分~一一時

一〇月二一日(金) 一一時~一一時二〇分、一時三〇分~一時五〇分

一〇月二二日(土) 八時四五分~九時一五分

一〇月二五日(火) 八時四五分~九時三〇分、一二時~一時

一〇月二七日(木) 一二時~四時四五分

一〇月二八日(金) 一二時~一時一〇分

一〇月二九日(土) 一一時~一二時

一〇月三一日(月) 一〇時一五分~一一時一五分、二時~二時一〇分

一一月 一日(火)  一〇時~一一時三五分

一一月 二日(水)  一一時~一一時三〇分

一一月 四日(金)  一一時三〇分~四時四五分

一一月 五日(土)  一一時~一一時三五分

一一月 七日(月)  一一時三〇分~一時三〇分

一一月 八日(火)  一一時三〇分~四時四五分

一一月 九日(水)  八時四五分~一一時三〇分

一一月一〇日(木) 一一時三〇分~一時

一一月一一日(金)より三六年五月六日まで 午前八時四五分~午後四時四五分まで全日スト

(2) このうち時限ストライキの態様は、各店舗において、中央斗争委員などの組合幹部の笛を合図に執務を中断し、組合が全員二階に集合し労働歌を唱つたり、シユプレヒコールをしたり学習会を行つたりするものであつた。

(3) また全面ストライキの際も、二、三の店舗においては、短時間店舗前路上で労働歌を唱うなどして気勢をあげることがあつたが、ほとんどの店舗においては二階(平常時は従業員の食堂や集会、レクリエーシヨン、あるいは外務員の詰所((四、五店舗))として利用されており顧客との接触の場所ではない)に滞留していた。また店舗前で気勢をあげる際も顧客の入店を阻止したことはない。

(4) 従来、組合がストライキを行うにあたつては金庫に対し争議予告を行つてきた。しかし予告制度が協定として存在していたわけではない。今回の個々の時限ストライキや全日ストライキにつき組合は予告をしていない。

2 (1) 本件各ストが一〇月五日の「三菱独占資本のための合理化反対、団交を開け、労働協約を守れ」とうたつたスト宣言に基き行われたもので、その目的を違法視すべきではないことは、先に認めた争議の経過及び争議目的の正当性の判断の項において述べたとおりであり、組合が個々のストを行うにつき、被告金庫に故らな害意を持つていたと認められる証拠もない。また被告金庫は、一一月九日団交が再開されたのに組合が一一月一一日より全日ストに突入したことを非難するが、労働者の団体行動権なかんずくスト権は団体交渉における事態の有利な解決の手段として認められているものであることや、一一月二二日からの被告金庫の態度を(争議経過(24)ないし(27))考慮すれば、何ら非難にあたらない。

(2) 従来、組合がストを行うにあたつては、事前に争議予告をしたこと、しかし今回はそれをしなかつたことは右(4)のとおりであるがむしろ今回の争議では被告金庫において、組合がスト権を確立する以前の九月二六日において、既にストを予測した業務対策をたて、各店舗に指示を与えていること(争議経過(14))、一〇月五日のスト宣言が包括的な予告とも解し得ることに鑑みれば、個々のストにつき予告をしなかつたからといつて、スト自体を違法視すべきほどの労使間の信義則違反はない。

(3) また被告金庫は手形交換業務の放棄を重視し、証人斉藤(道)の証言によれば、たしかに一〇月二七日、一一月四、八日の三回右業務が放棄されたことが認められるが、ストライキとして、これをなし得ないとの根拠はないし、又同人の証言によれば、スト中は少数の非組合員やアルバイト、あるいは他の協力

金融機関の非常な努力により手形交換業務をも含めその余の業務遂行についても預金の引出しを優先したため預金量の減少という事態は生じたが、幸いにして大事に至らなかつたことも(勿論組合は、非組合員の努力によつて大事に至らなかつたことを銘記すべきである。)認められるから、本件ストの回数が多く、時間が長期に及ぶことなど、右に個々に検討しなかつた原告らにとつて不利なあらゆる事情を考慮しても、結局本件ストをスト権の濫用として違法であるとまでは言い難い。

(五)  賃金カツトの阻止及び賃金全額払いの強要

1 各店舗における阻止行動の状況

(1) 本店本部

当事者間に争いなき事実に、証人岡野の証言、原告鈴木、同大神田、同斉藤本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。

イ 一〇月二五日午前一〇時三〇分頃から約三〇分間、二階食堂において、本部給与支払責任者岡野義雄に対し、原告鈴木と、渡辺、笹岡その他七、八名の組合員が賃金カツトの根拠は何か、業務命令なら「人を殺せ」という命令にも従うのか、と語気鋭く詰問した。その直後岡野が給料明細計算中の従業員(組合員)の所へ様子を見に行こうとしたところ、一組合員が(原告鈴木であるとの証人岡野の証言は、原告鈴木本人尋問の結果に照し採用できない)瞬時「まだ話がある」と岡野の腕をとつた。又正午頃岡野が二階会議室で非組合員従業員を使つて給料計算をしている所へ原告大神田と笹岡があらわれ、岡野が退去を命じたところ原告大神田が「てめいだけ給料もらつておれ達をひぼしにするのか、人間のつらをした鬼みたいなものじやないか」などの言葉を浴せた。午後四時頃から岡野がカツト分を控除した給料を支払おうとしたところ、組合員はこれを受取ろうとせず、翌二六日午前〇時三〇分頃まで(午後七時頃から九時頃までは中断)二階岡野の席や一階田島営業部長の席付近で、営業部組合員も加わつた組合員らと岡野との間で「受取れ」「受取らぬ」と押問答が続けられた。原告鈴木は、午後七時前後約三〇分右交渉に立会つた。前掲証拠のうち右に反する部分は採用しない。その他被告金庫主張事実にそう証人岡野の証言部分はにわかには採用できない。

(2) 本店営業部

証人田島の証言によれば次の事実が認められる。

イ 営業部給与支払責任者田島安太郎に対し、一〇月二五日午前一一時頃から約一時間、二階食堂において、原告鈴木と組合の本店支部長が、又午後七時頃から九時頃まで、と午後一一時頃から翌二六日午前二時頃まで(午後九時頃から同一一時頃までは、田島が金庫争議対策本部へ相談に行き中断)営業室田島の席付近や二階事務室の岡野の席付近で営業室組合員四、五〇名があるいは本部組合員も加わつて七、八〇名が賃金カツト阻止のため交渉を行つた。その際「このじじい、みそこなつた。自分だけ給料をとればいいのか、血も涙もない」などの野次もあつた。右認定に反する原告鈴木本人尋問の結果は採用しない。

しかしながら、右交渉の一時期に、原告斉藤、同大神田が同席したとの証人田島の証言は、右原告ら本人尋問の結果に照し採用しない。

(3) 上落合支店

イ 当事者間に争いなき事実に証人山田、同原の証言及び原告斉藤本人尋問(第二回)の結果を総合すれば次の事実が認められる。

一〇月二五日午前九時三〇分頃、原告斉藤と中央斗争委員原、その他支部組合員三名が同店給与支払責任者である支店長山田正紀を二階食堂兼休憩室にともない、交渉をした。その際右原告斉藤を中心とする組合員から「我々とすれば、これだけおとなしく一生懸命働いているのにあなたが聞き入れてくれないなら少し声を大きくしてしやべる」「こういうでたらめなカツトなんぞは私は信用できない、すべて撤回してもらいたい」などの発言があり、支店長は「業務命令だからしかたがない、個人としては事を荒立てるだけだからあまりやりたくない」と答えている。正午頃、一たん交渉は打切られそれぞれ昼食をとり、体の調子の悪い支店長がしばらく休憩した後午後一時三〇分頃から再び交渉が行われ、二時三〇分頃、支店長が自らの責任で払うことを明かにして交渉を終つた。そして午後五時頃全額支給がなされた。前掲証拠のうち右認定に反する部分は採用しない。そして右証人山田の証言によつても、原告斉藤の発言態度は穏やかであつたということであり、その余の被告金庫主張にそう右証人の証言部分もにわかには採用できない。

(4) 新宿支店

イ 当事者間に争いのない事実に、証人高瀬の証言及び原告大神田本人尋問(第一・二回)の結果を総合すれば次の事実が認められる。

一〇月二五日、午前一〇時頃から支店二階外務員室において、原告大神田と他七、八名の組合員が同店給与支払責任者高瀬源吉支店長と交渉した。その際業務命令だから従わざるを得ないという高瀬に対し原告大神田を中心とし、参加組合員から「賃金カツトを強行すれば、これ以上争議が大きくなつてかまわないか、スト解決後店にいられなくなる」「黙つておつては、わからないじやないか、支店長耳があるのか」「淀橋支店長は賃金カツトの撤回を交渉するため本部へ行つたぞ、高田馬場支店は賃金カツトしないで支給することにきまつたぞ(支店名はちがうが、そのような事実はあつた)」などの発言がなされ、結局正午時頃、高瀬は賃金カツトをしないことを約束した。前掲証拠のうち右認定に反する部分は採用しない。

ロ 証人高瀬の証言によれば、右交渉の行われた二五日の前日二四日に、支部組合員押尾に対し、「争議がこれ以上大きくなるのを防げるものならカツトしない方がよい。その旨努力する」と発言していることが認められ、それにもかかわらず翌日には業務命令だから従わざるを得ないとの態度に変つたため右のような原告大神田らの言動となつたものと解される。証人高瀬の証言によつても、他に考慮すべき事情は認められない。

(5) 池袋支店

イ 当事者間に争いなき事実に、証人久保、同細田、同江沢の証言原告菊池本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

一〇月二五日午前一〇時頃から組合副委員長細田組合支部長波木、原告菊池、江沢中斗委員その他二、三人の支部組合員が、営業室内の支店長席横応接テーブルにおいて同店給与支払責任者久保守明支店長と交渉した。双方意見をかわし、正午頃解散したが、その際原告菊池が「午後はたいへんですよ、まあ覚悟して下さい。」と発言した。終業時近い午後四時三〇分頃右同所で交渉が再開され、細田、波木、中央斗争委員矢挽、その他支部組合数名が立会つた。(原告菊池はいない)組合側は給料の一部として受取り賃金カツトを認める趣旨ではないということを明確にした領収書を書くことを主張し、矢挽が時に怒声を発し、机をたたくこともあり、他組合員から「一二時を過ぎると二六日になりますよ」などの発言もあつた。久保支店長が午後九時三〇分頃から一一時頃にかけ金庫争議対策本部へ相談に行つたため交渉は一時中断したが、午後一二時頃結局組合の主張する領収書とひきかえに久保支店長は賃金カツトをした額を支払つた。前掲証拠のうち右認定に反する部分は採用しない。

ロ その余の事情についての証人久保の証言も証人細田、江沢の証言に照し採用し難く、他に特に考慮すべき事情も認められない。

(6) 大山支店

イ 証人古谷、金元の証言及び原告鈴木本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。

一〇月二五日終業後の午後三時三〇分頃から組合支部長金元をはじめ二〇数名の支部組合員が、同支店給与支払責任者である支店長事務取扱い理事古谷滋の席を取囲み、賃金全額支払の交渉を開始し、途中から板橋支店組合員約一五名も加わり又午後八時頃からは原告鈴木もこれに加わつて、双方で激しいやりとりがあつたが、結局古谷が承諾しないため組合員は一二時頃交渉を打切つた。前掲証拠のうち右に反する部分は採用しない。

ロ また右証人金元の証言によれば、同日は就業時間中に交渉をすることを申入れたが古谷から拒否され結局終業後に行なわれたこと、午後九時頃組合員が握り飯を作つたところ古谷も手をのばし食べるといつた雰囲気であつたこと、古谷の言葉使いが粗野なために、双方のやりとりが激しくなつたものであることが認められる。

ハ 原告鈴木が古谷の手をとり印鑑をもたせて伝票に捺印するよう強要したとの被告金庫主張にそう証人古谷の証言は、証人金元の証言及び原告鈴木本人尋問の結果にてらし採用できない。被告金庫主張にそうその余の証人古谷の証言もにわかには採用できない。

(7) 志村坂下支店

当事者間に争いなき事実に、証人林、矢挽の証言、原告大神田本人尋問の結果、成立に争いのない甲七〇号証を総合すれば次の事実が認められる。

イ 一〇月二四日、二階食堂において、同店給与支払責任者である支店長林辰蔵に対し、午後八時頃から約一七・八名の支部組合員が、又午後九時頃からは原告大神田、中斗委員矢挽も加わり、午後一〇時頃まで林を取囲み、交渉をした。その際参加組合員は「カツトして払うのか、てめいだけは給料もらつて他の者を干ぼしにするのか、人間の面かぶつた鬼じやないか」「人非人なやつ」「全部カツトなしで支払う約束をするまでは帰さないからじつくり話合おうじやないか」などの言辞を浴せた。

翌二五日も午前九時三〇分頃から正午頃まで組合副委員長大場他四、五名の支部組合員が、同店階下林の自席付近あるいは二階食堂において林と交渉をした。その後二度林が他店へ相談に出向いたため中断されたが、板橋支店において支払われたことを知つた林は結局組合の計算による全額支払伝票に捺印した。前掲証拠のうち右に反する部分は採用しない。

(8) 成増支店

イ 証人板谷の証言によれば次の事実が認められる。

一〇月二四日、同店給与支払責任者支店長板谷憲次が、賃金カツトをした給料額の計算を、庶務給料計算係高田光子(組合員)に指示したところ、同日夕方組合員鈴木行雄が、これを拒否してきた。

一〇月二五日、午前九時三〇分頃から組合員鈴木恭幸、針塚、長谷川らが板谷支店長に対し終日「カツトしない支払伝票に押印を願います。」と要求し、午後四時三〇分頃板谷はこれに応じた。前掲証拠のうち右に反する部分は採用しない。

右証人板谷の証言によつてもその他考慮すべきほどの事情は認められず、かえつて板谷は、右交渉途中も他所へ電話をしたり食事のため外出したり、自由に行動していたことが認められる。

(9) その他

右に検討した以外の被告主張の各支店においても賃金カツト阻止行動が行われ、一六店舗中合計一一店舗において結局賃金カツトがなされなかつたことについては、当事者間に争いがないが、その具体的状況につき、特に考慮すべきほどの事情をうかがわせるに足る証拠はない。

2 (1) 勤務時間中、従業員の組合活動のための職場離脱が従来どのように行われ、又今回どのように、どの程度行われたかについては(三)「執行委員その他組合員の就業時間中の組合活動」の項で検討したとおりである。

(2) 原告らは、労使間に、勤務時間中の組合活動の保障とともに、保障された組合活動については賃金カツトしない旨の協定又は労使慣行があつた旨主張する。

原告斉藤本人尋問の結果によれば従来から被告金庫においては、組合に対し最少限度保障された三二年一二月一四日付金庫回答書どおりの組合活動のみならず、それ以上に組合が一般組合員までをも届出のみにより職場離脱させた(たとえば、安保条約阻止統一行動など外部での活動に参加)場合なども含めて、現実には一度も賃金カツトが行われたことがなかつたことが認められ、右認定を妨げるに足る証拠はない。

(3) また組合の機関決定にもとずく争議行為としてなされた職場離脱についても、金庫労使間においては、今までに紛争途中に金庫が賃金カツトの意思を明らかにしたこともなく、行つたこともなく、各争議解決時に労使間の覚書として諸要件の解決と合わせ「争議期間中の賃金は保障する」というかたちで処理されてきたことは、成立に争いのない甲三、六号証、乙一四・一六・二六・二七・二八・三一号証により認められるとおりである。

(4) 一般に労働者が組合活動のため勤務時間中使用者の指揮を離れて労務の提供をしなかつた場合、その間の賃金請求権を失うと言えるのであるが、右に見たように、従来から一度も賃金カツトが行われたことがなかつたという事実はその当否はさておくとしても(それがいわゆる協定とか慣行とか呼べるものであるかどうかは別にしても)、以後において金庫も右のしきたりを尊重し、この線にそつて処理されることを組合側が期待することについては疑う余地がない。

(5) 被告金庫は一〇月四日組合に対し、賃金カツト通告をしたにもかかわらず、組合はその後放置し、同月二四日に至り、突如反対の意思を表明し、同日から翌二五日にかけて暴挙に出たと非難する。

しかしながら、一〇月五日スト宣言が発せられたのは、その前日である四日に今まで一度も行われたことのなかつたカツト通告がなされたことに刺激されたものと理解されること(争議経過(18))、一〇月二四日以前も賃金カツト反対のビラが貼られていること(弁論の全趣旨により成立の認められる乙一九〇号証)、組合は賃金カツト反対を明文をもつて団交の主題とはしていないが、一〇月六日以降、ほとんど連日にわたり「労働協約について、今回の紛争について平穏に事態を収拾する具体的方策について」団交申入をしている(争議経過(20))のであるから、一〇月五日に組合の態度を硬化させた一原因たる賃金カツト問題も当然その中に含まれていると解されることに照らせば、労働条件その他従業員の利害に関することにつき組合との事前協議制が存する(争議経過(6))以上、被告金庫においてまず団交に応ずべきが先決であつて、組合が一〇月二四日に至り突如反対行動を起したとの被告金庫の非難はあたらない。そもそも被告金庫は、「今回の賃金カツト通告は何ら組合と事前協議したり説明を要する性質のものではない」(成立に争いのない甲四五号証)として組合からの団交に応ずる意思を有していなかつたことが明らかである。

(6) 被告金庫は従来の労使間のいきさつにつき、本来賃金請求権を失う場合に使用者がこれを保障することは不当労働行為と云えるし、特に争議期間中の不就労については、争議妥結時に紛争の長期化を虞れる金庫側が譲歩することによつて不当労働行為を強いられてきたものであると主張するが、賃金カツトしないことだけから一概に不当労働行為が成立するものでないことは明らかだし、又金庫に不満があつたにせよ、争議妥結時の覚書という形のうえで正常なルールに従つて賃金カツトしないことに処理されてきた事実を無視することはできず、(各覚書が組合側の脅迫や詐欺、又は金庫側の錯誤によつて成立したなどの形跡は何ら存しない。)それを改変しようとする金庫としては、組合からの団交申入に応ずるのが妥当の処置と云うべきである。

(7) 1に認定した阻止行動の中には、時間的に長時間で深夜に及ぶもの、組合員の言辞に穏当を欠くものがあり、行きすぎのきらいがあるものもあるけれど「前記認定のような」事情の下において、金庫が一方的に賃金カツト通告をし、その実施を計らんとしたのに対し(争議の経過(15)(16)参照)、組合が活発な阻止行動を展開するのも理解しうるところであつて、違法の行為ではあるとはいえ、一概に組合側に責任を負わすことはできない。

(六)  非組合員に対する就労阻止その他の業務妨害

1 各店舗における状況

(1) 本店営業部

イ、当事者間に争いなき事実に、証人田島、同古谷の証言及び原告斉藤本人尋問(第二回)の結果を総合すれば次の事実が認められる。

一〇月一四日、都内豊島区池袋中公園で開催された地区労主催の「浅沼追悼暴力排除総決起大会」に参加した組合員らが本店にむかいデモ行進して来るのを迎えるため、同日午後六時頃原告斉藤、同鈴木は、本店営業部長田島安太郎、常務理事古谷滋に対し、営業室の使用方を申入れ、それを断られるや、更に屋上の使用方を申入れ、古谷が、それをも断るや、原告斉藤において、古谷に対し「おまえにそんな権利があるのか」と言い結局許可なく同日午後九時頃まで原告斉藤をはじめ組合員約二〇名が屋上にあがりデモ隊及び通行人に対し、スピーカーによる呼びかけを行い、紙吹雪を撒いた。しかしながら、従来組合は本店営業室を組合大会や新入社員歓迎会を催す際使用させてもらつているし、屋上も戸口の施錠はほとんどしてなく、休憩時間など従業員が度々レクリエーシヨンのため使用することがあつたし、今回も業務終了後であつて、さしたる業務支障も生じなかつた。前掲証拠のうち以上の認定に反する部分は信用しない。

(2) 落合支店

イ、足立支店長に対し始業時前・終業時後の各二、三分位、組合員が団交を再開するよう抗議と要請をしたこと、及び一一月一一日以降店舗二階に滞留したこと、外務員や停年退職者に対しスト協力を呼びかけ説得をしたことは、原告ら自ら認めるところであるが、その具体的事情につき認めるに足る証拠はない。

(3) 上落合支店

イ、一一月中旬頃から支部組合員が店舗二階に滞留していたことは当事者間に争いがなく、証人山田の証言によれば時限スト突入後、時限ストのたびに支部組合員が二階広間に集り、労働歌を声いレコードをかけたり足踏みをし、全日ストに入つてからは、そのような状態が一層続き、そのため階下営業室にもその音が響いたことが認められる。

(4) 新宿支店

イ、証人高瀬の証言によれば次の事実が認められる。一〇月二八日、高瀬が一〇月二五日の賃金カツト事件により支店長を解任され、後任として永井三郎本店監査部長が就任したが、同日永井が高瀬から事務引継中、原告大神田も加わり多数支部組合員が「お前は支店長として認めない、本部へ帰れ、前支店長の解任を撤回しろ」「馬鹿ヤロウ」などと罵つた。

ロ、更に右高瀬証人の証言によれば、永井が支店長の就任後同人の事務上の指示に対し、組合員である従業員が反抗的態度をとつた節がうかがわれるが、具体的に、いかなる指示に対し、いかなる態度をとつたか明らかにならない。

ハ、同じく右証人によれば、一一月一一日全日スト突入後支部組合員は、鉄筋三階建店舗の主として三階に滞留し労働歌を高唱したり、ときに店舗前で約一五分位労働歌を唱つて気勢をあげたりしたことが認められるが、それが階下の営業室にひびき著しく喧騒ならしめ業務を妨害したとの証言は、同人のその余の証言部分にてらしにわかには採用できない。

ニ、支店長らに、いやがらせの電話をかけ業務を妨げたとの点の被告の主張についてはこれを認めるに足る証拠がない。

ホ、原告大神田本人尋問(第一回)の結果によれば、一一月二三日午後六時頃二階において会議中の約二〇名の組合員がその席へ、階下において業務整理中の永井を連れだし(身体に直接ふれてはいない)約三〇分にわたり一一月分賃金カツトをしないようと交渉したことが認められ、右に反する証人高瀬の証言は採用しない。右高瀬の証言によれば、その翌日永井は風邪をこじらせ欠勤するに至つたことがうかがわれるが、同人の証言をもつてしても、いまだこれが、右交渉に応じたがためであるとは認められず、他にこれをうかがわせるに足る証拠はない。

ヘ、非組合員川村に対する就労妨害の点については金庫主張に一部そう証人高瀬の証言があるが、原告大神田本人尋問(第一回)の結果にてらし信用できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

ト、証人高瀬の証言によれば、一一月末頃本店営業部員山口敏夫(非組合員)が朝業務手伝いに同支店に出勤したところ、一階事務室入口において、五、六名の組合員が同人に「お前帰れ帰れ」と言い、同人を二階にともない、約二〇分にわたり就労しないよう説得したため同人は、そのまま就労せずに帰つたことが認められる。しかしながら、被告金庫の主張にそうような、二階における具体的説得状況については、これを証する証拠がなく、かえつて原告大神田本人尋問の結果によれば、二階においては穏やかに、説得活動が行われたことがうかがわれる。

(5) 大山支店

イ、証人古谷の証言によれば、同店へ手伝いに来た本店営業部員山口敏夫(非組合員)が、午前九時頃営業室内の出納室へ入つたところ、組合支部長金元三郎他多数組合員がその周囲をとりかこみ、就労しないよう要求して騒ぎ、その際制止に入つた古谷支店長と組合員との間で、二、三発殴り合いがあつたことが認められる。

(6) 志村坂下支店

イ、証人林の証言によれば一〇月二七日午後組合が時限ストを行つたため同店に手伝いに来た本店営業部員山口敏夫(非組合員)に対し、組合員がその周囲を取り囲み就労を不可能にしたことが認められるが、さらに、その時間態様など具体的状況については、これをうかがわせる証拠がない。

ロ、同林証人の証言によれば、一一月一二日、同店に手伝いに来た落合支店外務係杉山某(女性非組合員)が営業室フロアーから事務室へ入ろうとしたところ、組合員がその通路をふさぎ帰れ帰らぬで押問答となり組合支部長狩能文明が「帰れ帰れ水をぶつかけるぞ」と罵つたこと、そのため、同女は就労せずに帰つたことが認められる。

(ハ)、更に右同証人の証言によれば一一月一四日、手伝いに来ていた本店管理係長長瀬某(非組合員)がカウンターで客と応待中、組合員が「早く本店へ帰れ」「この男はスキヤツブです」と書いたプラカードを持つて同人の周囲に立つたことが認められる。

(7) 成増支店

当事者間に争いなき事実に証人板谷、同館野、同目黒の証言及び原告広田、同鈴木、同大神田の本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められ、右証拠のうち認定に反する部分は採用しない。

イ、一一月一二日午前八時四五分頃、要町支店庶務係館野保、同支店貸付係本岡忠志(いずれも非組合員)が臨時勤務を命ぜられて出勤した際、営業室入口において、支店前で歌を唱つて気勢をあげていた支部労組員約二〇名が「君は何だ、どこから来たんだ」と言つて両名を二階に連れて行き(直接身体に触れることはなかつた)、午前一〇時三〇分頃まで、命ぜられて来ているのだから就労させてくれるようたのむ両名に対し、交ごも「それでも労働者か、争議の敵だ早く帰れ」などの言葉をあびせた。両名共これに応ぜず両名は業務についた。

ロ、一一月一四日も、一二日同様朝営業室へ入ろうとする館野に対し店前で気勢をあげていた支部組合員が「また来たのか帰れ帰れ」といつたが館野はそのまま就労した。同日午後五時頃、二〇数名の支部組合員が同人を二階会議室に連れて行き(直接身体に触れてはいない)、同七時三〇分頃までにかけて、同人の周囲を取りかこみこもごも「一二日にあんなに言つたのに、また今日来てやつているのか、直に帰れ、明日からはどういう手段をとつても就労させないから」「業務命令が何だ、我々は組合本部の命令で力をもつて帰つてもらうから」などの言葉をあびせた。

ハ、一一月一五日、午後九時頃就労しようとした本岡が、組合員から説得を受け就労できずに帰つた。(しかし、その具体的状況を証するに足る証拠はない)

ニ、一一月一六日午前勤務についた館野に対し、支部組合員大勢が営業室の同人の机の周囲を取かこみ、あるいは机上にあぐらをかき「経営者の番犬だ」「スト破りだ争議の敵」「それでも人間か」などの言葉を浴せたが、金庫監事小林亀男のとりなしで正常どおり就労した。

ホ、前同日午後五時頃、組合員が館野を二階会議室に連れて行き「今朝小林監事とあのような事を起したのは全部君の責任だ、君が成増支店に仕事に来るからああいつた問題が生じたんだ、直ぐ帰れ、もういよいよ実力をもつて帰すぞ、争議が終つてからも非組合員は成増支店に入れないから覚悟しておれ、人間の言葉がわからないのか、」などの言辞を浴びせた。

ヘ、一一月一七日朝営業室に入ろうとした館野を、二五~三〇人の支部組合員がその周囲を取かこみ附近小学校に連れて行き、午前一一時三〇分頃まで「違法行為じやないか我々は業務命令によつて成増支店臨時勤務を命ぜられている職員だ、我々を就労させないのか、このようなことをしてよいのか」と言う館野に対し、「業務命令が何だ、業務命令なんか返してしまえばいいじやないか」などの言辞を浴びせた。

ト、一一月八日午前八時四五分頃から一〇時頃にかけて、二階において組合員が山崎日出夫に対し「君達が手伝いに来るから長引くんだ帰れ」等の言辞を浴びせた。

チ、一一月一五日午後七時頃から八時半頃にかけて、組合員が残業中の山崎を食堂へ呼び「お客さんが君達が来ることをこころよく思つていない。君達のような知らん人が来たんではお客さんが不安になる」などと不就労を説得した。

リ、一一月一八日頃から、二階滞留中の組合員が朝たまに一〇~一五分位にわたり、スクエアダンスをしたりレコードをかけたりした。

ヌ、以上のうち多くは原告広田も参加しているが単に組合員の一員として関与しているにすぎず、率先して積極的に参加したわけではない。また原告鈴木、同大神田も一部参加はしていることが認められるが、同人らはとくに取り上げるほどの言動をとつてはいなかつた。

(8) その他には特に考慮すべきほどの就労阻止行為、滞留にともなう営業妨害行為を認めるに足る証拠はない。

2 (1) 本件において就労阻止の説得の対象となつた者は、組合の統制に服することのない非組合員であるから、組合の統制に服すべきであるにもかかわらずこれを破つて就労しようとする者、外部からスト対策として臨時に雇い入れた者らに対するよりその説得活動は穏やかなものでなければならない。この意味から、右に認めえた就労阻止行為の中には、(5)、(6)ロ、(7)イ、ロ、ヘのように明らかに行き過ぎと見なければならないものもあり、その他にも組合員の言辞につき穏当を欠くものもないではない。しかしながら一方、暴力と解されるような行為がほとんど存在しないこと(わずかに(5)の大山支店において大山支店長と組合員間に二、三発殴り合いがあつたが、これとて他店の状況と対比すれば、まさに偶発的できごとであり支店長自身も殴り合つているのであるから、組合側にのみ責任を負わせうるほど違法性の強いものとみることはできない。)、一般顧客その他第三者に対する入店阻止行動は見られないこと、争議の経過の項において認めたような一連の流れの中で発生したことであることも十分考慮しなければならない。

また(1)本店営業部での行為や、その他の店舗における二階滞留にともなう組合員の行為については、右に認め得た限りにおいては特別に違法視しなければならないほどのことはない。

四  金庫業務の公共性、特殊性に関する被告の主張について

被告金庫は、随所において、本件解雇事由(争議行為の正当性)を判断するにあたつては信用金庫業務の公共性、特殊性から来る従業員の争議行為に対する強度の制約を考慮すべきであると主張する。

たしかに、信用金庫が多数の一般顧客や他の金融機関との間に取引関係をもち社会の経済活動において重要な役割を占めているという意味において、公共性、特殊性を有することは明らかである。しかしながら、労働者の団体行動権は、憲法二八条の保障するところであつて、これを制限することは出来ないものというべく、当該業態の特殊性の故に、たとえこれを制限することが許される場合があるとしても、特別の立法を必要とするものであることは云うまでもない。被告金庫がその根拠としてあげる信用金庫法八九条、銀行法一八条の規定は何ら労働者の権利を制約するために設けられた規定ではないし、右規定から反射的に労働者の権利が制約されるとも解し難いし、他に、信用金庫従業員の団体行動権を規制する法律はない。従つて、被告が信用金庫であるということから(各企業の業態によつて自ずから附随的争議手段の許容の範囲程度の差がありうるということのほかに)他の一般企業に対するより強度の争議権の制約があるとの前提をたて、本件解雇事由を判断することは許されない。

五  不当労働行為の主張について

(一)  広田を除く原告らについて

1 本件紛争の紛糾原因が、従前労使間に存在した公開団交制と事前協議制についての金庫側の一方的否定と、今まで行われたことのなかつた賃金カツト強行にあつたこと、そして金庫が、組合からの相つぐ団交申入れを拒否しつつ、あらかじめ各支店長から退任の誓約書を徴し、争議対策の臨時通達を発するなど組合のスト権確立以前に組合対抗策と争議態勢を固めていたこと、また現実に金庫は、その指示に従わなかつた支店長をいずれも降職していること、などの経過は先に検討してきたとおりである。

2 さらに、証人桜井の証言及び成立に争いのない乙六八号証の四ないし一七によれば、金庫は一一月三〇日原告(広田を除く)ら組合指導者の解雇とともに、ロツクアウトを通告し、翌一二月一日には要町、椎名町両支店を始め数店舗において暴力団の協力を得て滞留組合員の排除をはかつたこと、組合員の私宅へ、組合からの脱退を勧め、脱退しなかつた場合は不利益を受ける旨や「落莫の気持をかくし声からし春にそむきて赤き歌うたう」などを記した組合及び組合幹部非難の数通の葉書を郵送していること、も認められ、この認定を妨げるに足る証拠はない。

3 このような状況からすれば、さきに認定した金庫の一連の行為は組合側の優位にあつた従来からの金庫労使関係を一挙に自らの優位へと導くべく、金庫が組合の弱体化を計ろうとしたためのものであると解さざるを得ない。

4 たしかに、解雇事由として主張されている行為のうちビラ貼り行為、賃金カツト阻止、就労阻止妨害行為のなかには、違法とすべきものがあり、これが金庫就業規則(成立に争いのない乙六七号証)第五条中二号事業所の風紀秩序を乱さないこと、五号故意又は過失により、金庫及び金庫の取引先に損害を及ぼさないこと、七号その他不都合の行為をしないことの各規定に形式的には該当することも疑いないところであり、争議当時原告菊池は組合の書記長、同大神田は組合執行委員、同鈴木は東信労中央執行委員長で大山支店支部委員、同斉藤は組合淀橋支部長及び全信労常任幹事でいずれも本件争議の中央斗争委員として、本件争議の中心的役割を果したことも当事者間に争いがなく従つて、組合の統制に反して個々の組合員が独自の行動をとつたと認められない(争議経過(19))本件においては、原告ら中央斗争委員に、右の如き争議行為を企画、決定、指導あるいは実行した責任を帰せられることも否定しえないところである。

しかしながら個々に検討したように、違法行為の情状は必ずしも重いものではないうえ、原告ら自身の加功の程度も多くはなく、そもそも原告らの解雇事由として被告が主張した事由の中で、右違法行為の占める割合が小さく、その余は結局組合活動として許容されるものであることを考えると一連の金庫の態度のなかで、本件原告らの解雇自体も、その主たる理由は組合の弱体化のために、原告ら、組合における中心的活動家を企業内から排除せんとして組合ひいては原告らの正当な組合活動をとらえてなされたものと認めざるを得ない。

(二)、原告広田について

1 被告金庫は、賃金カツト阻止問題により成増支店長板谷憲次の支店長の職を解任し、その後任として当時成増支店長代理の地位にあつた原告広田を支店長心得に任命し、一〇月二八日正式辞令を交付したこと、しかし広田は、組合に加入したことを理由に、翌二九日右辞令を返還し、支店長心得になることを断つたこと、そこで被告金庫は同日広田の支店長心得を免じ、業務命令違反ということで一一月七日付をもつて七〇〇円の減給処分に付したことは当事者間に争いがない。

2 原告広田が成増支店における就労阻止行動に参加したこと及びその程度は先にみたとおりである。また一〇月二九日以降ビラ貼りにも一組合員として参加していることは原告本人尋問によつて認められるところである。しかし、右就労阻止行動やビラ貼り行為を違法とすべきものとしても、広田は組合指導者でもなく、又右行為に特段に積極的参加をしたものと認められないから、とうてい解雇事由となすことはできない。金庫が原告広田を解雇した時期は、まさに、金庫が組合員私宅に組合脱退を呼びかけて葉書を郵送しはじめた時期とも合致するし、争議に対し、同程度の関与をしている多数一般組合員がいるにもかかわらず原告広田を区別して解雇しているのであつて、その理由は、前記認定の諸事実にあわせてかんがみると金庫が組合の弱体化を企図し争議が紛糾している折に、支店長心得として職制となるべき広田があえて組合に加入したということをとらえたものであると解するのが相当である。

(三)、以上のとおり、金庫の原告らに対する解雇の意思表示はいずれも労組法七条一号に該当し、不当労働行為として無効といわねばならない。

よつて、原告らの請求のうち原告らがいぜんとして被告金庫に対し雇傭契約上の権利を有することの確認を求める部分は理由がある。

第三、賃金及び賞与について

一、賃金

(一)  (1) 原告らに対する解雇の意思表示が無効であり、原告らは依然として被告金庫の従業員としての地位を有することは以上検討してきたとおりであり、金庫が原告らの就労を妨んでいることは当事者間に争いなきところである。従つて原告らは、金庫に対し賃金請求権を有することは明らかである。ところで、金庫は各年度の昇給については金庫の従業員に対する個別的意思表示によつて始めてその効果を生ずると主張する。金庫と組合間に各年度ごと、原告ら主張のとおりの昇給協定(内容については別表一のとおり)が結ばれていることは当事者間に争いがなく、また弁論の全趣旨によれば、その協定の昇給基準は金庫の従業員たる組合員のすべてに適用されるものであること、基準の詳細部分には、金額につき、たしかに金庫の裁量が働く余地があることもうかがわれる。しかし、同じく弁論の全趣旨によれば、右裁量部分については、それぞれの昇給時期において、その当時の従業員の勤怠等を勘案してあるいは平均額に一定の割合を上積みし、あるいは減額することを普通とするものであること、しかるに原告らは就労を拒否されていた結果、各自につき裁量の基礎とすべき実績および推定すべき資料がなく、右裁量の余地もなかつたことがうかがわれる。従つて、そもそも、会社の責に帰すべき事由により就労を拒否され、かかる事態が生じたのであるから、裁量部分につき原告ら主張のように、その平均ランクをとり、これを原告らの昇給に対して適用して、機械的に算出しても不都合はなく、結局裁量部分をもすべて含め、個別的意思表示をまつまでもなく金庫と組合間の各協定により原告らに対しその効力が及ぶと解するのが相当である。このように定期昇給をも考慮した原告らの昭和三六年五月七日以降口頭弁論終結時の直前の支払日までに支払われるべき各賃金額、及びその支払日が別紙債権目録第一ないし五の各一記載のとおりであることは当事者間に争いがなく結局原告らは、それぞれ右請求金額欄記載の賃金支払請求権を有する。(但し広田についてはさらに検討する。)

(2) 被告は、仮に賃金支払義務があるとしても原告らは別表三のとおり他の職場に勤務し収入を得ていたから民法五三六条二項但書に従い控除して支払えばよいと主張する。広田を除く原告らについては、被告の主張を認めるに足る証拠はない。又原告広田については、被告主張のとおりの収入を得ていたことは当事者間に争いがない。別表三の広田の収入については年単位のものであるが、その一二分の一が各月の収入であることは容易に推認され、それが、別紙債権目録第五の一請求金額中昭和三六年五月から四一年一二月までの欄記載の対応する各月の賃金額の四割以上の額であることも明らかである。ところで賃金につき民法五三六条二項但書を適用するにあたつては、労基法二六条の趣旨を尊重すべく、四割の限度においてのみ控除するのを相当とすると解すべきである。従つて原告広田は現実には別紙債権目録第五の一認容金額欄記載のとおりの賃金支払いを受ける権利を有する。

(3) 遅延損害金については原告らはいずれも各支払日以降完済に至るまで請求しているのであるが、遅延損害金の発生は支払日の翌日以降であつて各支払日当日についての請求は失当として棄却すべきものである。従つて各支払日の翌日から完済に至るまで商事法定利率による年六分の割合による損害金の支払いの部分を認容する。

(4) また、右口頭弁論終結時(昭和四二年一二月二五日)いまだ弁済期の到来していない昭和四三年一月分以降、被告金庫が原告らを現実に職場に復させるまでの賃金債権については、被告金庫が原告らの就労を拒んでいる態度に徴すれば、あらかじめ判決を求める必要を肯定することができる。しかしながら被告金庫が原告らを現実に職場に復帰させればそれ以後の賃金債権につき、被告金庫が支払をするであろうことは容易に推認されるところであるから、この部分については、特別の事情のない限りあらかじめ判決を求める必要を認め難い。従つて、特別の事情について立証のない本件においては、昭和四三年一月以降の賃金については、被告が原告ら各自を復職させるまでの限度で認容し、その余を棄却することとする。

二、賞与

(1)  被告金庫において、各年度ごとの期末、夏期、年末の各期に組合と金庫間の協定により賞与の支給がなされてきたこと、その支払基準が別表一のとおりであること、それによつて計算した金額が別紙賃金債権目録第一ないし第五の各二の請求金額欄のとおりであることは当事者間に争いがない。そして、原告らがいずれも金庫の従業員としての地位を有することは先に認めたとおりであり、かつ組合員であることは争いがないから、右協定により、原告らも各賞与債権を有する。

ところで被告は、金庫従業員としての地位を有する者であつても、実働日数がない者には各賞与ごと最低保障額として一万〇、〇〇〇円を支給すれば足る旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。また、被告金庫は、たとえ支払義務を負うとしても、定期昇給はなかつたものとし、昭和三五年度の賃金額を基準に算出すれば足り、又考課配分は控除すべきであると主張する。しかし、原告らが定期昇給を受けうることについては、先に検討したとおりであつて、賞与算出の基礎も定期昇給後の各年度の賃金額を基準とすべきものである。また、原告らの主張する考課配分も、弁論の全趣旨によれば、とくに別表二において一律とされていた場合を除き、会社の裁量によるものであるけれども、定期昇給における場合同様、それぞれの賞与支払時期において、会社が、従業員勤怠等を勘案して、一定の上積みをするものであること、しかるに原告らはいずれも就労を拒否されていた結果、各自につき裁量の基礎とすべき実績および推定すべき資料がなく裁量の余地がなかつたことがうかがわれる。そもそも、会社の責に帰すべき事由によつて就労を拒否され、その結果かかる事態が生じたのであるから、裁量部分につき、原告らの主張のように、全従業員の平均考課配分に従うことを相当とすべきであつて、また、各従業員に対する個別的意思表示をまつまでもなく、組合と会社間の協定により、原告らに対し、その効力が及ぶものと解する。

従つて、原告らは、いずれも別紙債権目録第一ないし第五の各二中請求金額欄記載の各賞与ならびに、それに対し上記目録中支給日欄記載の各日の翌日以降完済に至るまで商事法定利率による年六分の割合による損害金の支払いを受ける権利を有するので、原告らの賞与についての請求のうちこの部分を認容し、支給日当日の損害金については、いまだ遅滞におちいつていないのであるから、これを失当として棄却することとする。

第四、むすび

以上のとおり、原告らの請求のうち主文一ないし三の限度でこれを正当として認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については、民訴法九二条但書を、仮執行の宣言については同法一九六条を(主文第二項についてのみ付するのを相当と認める。)各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅賀栄 西村四郎 森真樹)

(別紙債権目録省略)

(別表一)

各年度の定期昇給基準(各年度の賃金額)

年度

基準

昭和三六年

昭和三七年

各従業員につき、年令、勤続年数、学歴等から機械的に当該年度の賃金額が算出される。

昭和三八年

前年度各従業員の賃金額+一律三〇〇〇円+定期昇給基準三ないし六号中の平均である五号俸。

昭和三九年

前年度賃金額+一律二〇〇〇円+三ないし六号中の平均である四号俸。

昭和四〇年

前年度賃金額+一律一二〇〇円+基本給の三%+三ないし五号中の平均四号俸。

昭和四一年

前年度賃金額+一律七〇〇円+基本給の一%+二ないし六号中の平均四号俸。

昭和四二年

前年度賃金+一律三号俸+二ないし六号の平均四号俸。

(別表二)

賞与の種類

支払基準

本給×月

家族手当×月

役職加給支店長代理

係長

特別賞与

平均考課配分

備考

昭和三五年度年末

一律

五〇〇〇円

16/154カツト

〃期末

一律

五〇〇〇円

〃三六年度夏期

二.八五+一律一〇〇〇円

一律一〇〇〇〇円

129/150カツト

〃年末

三.三

三+一律三〇〇〇円

五〇〇〇円

三〇〇〇円

一律

三〇〇〇円

〃期末

二.五

五〇〇〇円

三〇〇〇円

本給×〇.三

一律一〇〇〇円

30/285カツト

〃三七年度夏期

二.七五

一.五

五〇〇〇円

三〇〇〇円

三〇〇〇円

〃年末

三.五

五〇〇〇円

三〇〇〇円

本給×〇.三

三〇〇〇円

〃期末

二.八

五〇〇〇円

三〇〇〇円

本給×〇.五

三〇〇〇円

〃三八年度夏期

二.七五

一.五

役付手当×〇.五

三〇〇〇円

〃年末

三.五

役付手当×〇.一

本給×〇.三五

四〇〇〇円

〃期末

二.八

役付手当×一

本給×〇.二

三〇〇〇円

〃三九年度夏期

二.六五

一.五

役付手当×〇.五

三〇〇〇円

〃年末

役付手当×一

本給×〇.八五

五〇〇〇円

〃期末

二.八

役付手当×一.五

四〇〇〇円

〃四〇年度夏期

二.五

一.五

役付手当×〇.五

四〇〇〇円

〃年末

役付手当×一.五

本給×〇.四

〃期末

役付手当×一

本給×〇.四

〃四一年度夏期

二.一

役付手当×〇.五

本給×〇.四

〃年末

二.五

役付手当×一

本給×〇.四

〃期末

役付手当×一

本給×〇.四

(別表三)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例